流行りとコーヒー、そして身の丈のAI
週末、気分転換を兼ねてサークルの溜まり場である喫茶店へ顔を出した。マスターが淹れてくれたブレンドコーヒーを啜っていると、レジの話題になった。
「佐藤くん、実はね。近いうちにうちのレジを最新型に入れ替えることにしたんだよ」
マスターによると、新しいレジにはキャッシュレス決済と自動の入出金管理システムが導入されるらしい。これで毎日の売上集計や閉店作業がかなり楽になるとのことで、佐藤も「それは助かりますね!」と相槌を打った。
「でね、それと一緒に売れ筋の傾向を分析して、材料の発注量を自動計算してくれるAIシステムも付いてくるらしくてさ。初期設定も操作説明も全部業者がやってくれるんだってさ」
「えっ、AI発注ですか? ちなみに費用ってどれくらい掛かるんですか?」
会社のAIトラブルで頭を抱えていた佐藤は思わず身を乗り出したが、マスターは飄々とした顔で答えた。
「月額のライセンス料と保守費くらいだから、大した額じゃないよ。しかも最初の1ヶ月は無料トライアルなんだってさ」
会社に押し寄せてきた営業と全く同じ「1ヶ月無料トライアル」のフレーズに、佐藤は思わず苦笑いした。
「正直、キャッシュレス決済は時代の流れだし導入しなきゃと思ってたんだけど……まあ、AIはおまけみたいなもんだね」
カウンター越しにカップを磨きながら、マスターが笑う。
「うちみたいにメニュー数も限られてて、来るのは顔なじみの常連さんとたまの一見さんくらいの店なら、仕入れの量なんて長年の勘で十分足りてるんだけどさ。……まあ、ちょっと流行りに乗ってみたいだけなんだけどね!」
その言葉に、佐藤もサークルのおじさんたちもドッと吹き出した。
「ははは! masterも流行りものに弱いですねぇ!」
会社の工場や事務で起きている「AIに現場の勘を学習させようとして撃沈する」泥臭い苦労とは対照的に、この店でのAIはどこまでも軽やかで、ちょっとした道楽のような扱いだった。
「まあ、うちの会社みたいに振り回されない程度に試してみてください」
「もちろん! 駄目だったら笑って解約するだけだよ」
挽きたての香ばしいコーヒーの香りが漂う店内で、たわいもない会話が弾む。
「さーて、AIの試運転もいいけど、俺たちの次の手作りネタは何にするかねぇ?」
渡辺さんが嬉しそうに切り出し、みんなで次の創作活動のアイデアを語り合いながら、ゆったりとした時間が流れていった。




