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僕が逃げた利器と得た安住  作者: 藤一


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淡々と進む導入と、AIの静かな始動

週末のうちに業者が入ったらしく、月曜の朝出社すると会社には見慣れないカメラや端末が設置されていた。

始業前、全員が食堂に集められて業者によるAIシステムの事前説明会が開かれた。まずは入口に新設された顔認証カメラの説明から始まり、職人や事務員が一人ずつ順番に顔データを登録していく。

「もっと『めんどくさい』って反発が出るかと思ったけど……みんな案外静かだな」

社長と壁際で見守る中、職人たちは文句ひとつ言わず、促されるまま淡々とカメラの前に立っていた。続く勤怠管理、経費精算、経理入力の説明も、みんな無言で説明を聞いている。

最後に業者の担当者が「機械加工のラインには作業動作を学習するカメラも設置しています。AIが熟練の動作を覚えて再現のサポートをしますので、いつも通り作業を繰り返してください。それでは何かあればこちらの窓口まで!」と爽やかに言い残して帰っていった。

説明会が終わり、みんなぞろぞろと持ち場へ向かっていく。入口のカメラに顔をかざして勤怠を打刻し、それぞれのデスクや工場へ入っていくが、誰一人として楽しそうな顔はしていない。口には出さないものの、背中全体から「いちいちカメラ見るのめんどくせぇな……」という心の声が漏れ出ていた。

社長室の前で、社長と佐藤は思わず苦笑いを交わした。

「……まぁ、予想通りの空気感ですね」

「そうだねぇ。みんな大人だから文句は言わないけど、あからさまに嫌そうだね。何か一つでも『うわ、これめっちゃ便利じゃん!』って感動があれば雰囲気が変わるんだろうけどさ」

「まあ、ないでしょうね。とりあえずお茶でも飲んで、高物の見物と決め込みますか」

デスクに戻った佐藤は、いつも通りPCを開いて日常業務に取りかかった。

画面の隅でAIの学習プログラムが小さく緑色に点滅し、佐藤の操作記録を開始する。発注書のデータ入力、メールの作成、横に置いた電卓を叩いての数字チェック——いつもと何一つ変わらない月曜日の仕事が、AIの静かな視線の中で過ぎていった。

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