再燃するAI問題と、乗らない気乗り
先日の「大人の本気の文化祭」が大成功を収めて以来、山口製作所のホームページには街の市民や取引先からのアクセスが急増していた。
しかし、予期せぬ副産物もあった。アクセス数の増加に伴い、問い合わせフォームへ「AI導入で業務効率化!」「御社のDXを強力支援!」といったITベンダーからの営業メールが連日大量に届くようになったのだ。電話までかかってくる始末で、社長はすっかり頭を抱えていた。
「佐藤くん、なんかすごい勢いでAIの営業が来るんだけどさ……。うちって今、必要最低限のクラウドソフトは契約してるし、現状で特に困ってることってないよねぇ?」
「そうですね。現場も事務も今の運用でスムーズに回ってますし、新しく改善したい課題があるかと言われると……正直ないですね」
「だよねぇ。でも『話だけでも聞いてください! 御社の写真を見て将来性を感じました!』って営業の勢いがすごくてさ。根負けして一社だけ説明に来てもらうことになっちゃったよ」
そう苦笑いする社長に頼まれ、佐藤も打ち合わせに立ち会うことになった。
数日後、やってきた営業担当者は自信満々の表情で最新の「中小企業向けAIパッケージ」のプレゼンを開始した。
「御社のような中規模な会社様ですと、まずこちらの入退室セキュリティAI! 顔認証と連携して勤怠管理を自動化できます。さらに、経理入力の全自動AI、そして社長専属のスケジュール調整秘書AIまで、これひとつで業務効率が30%上がります!」
スライドを次々とめくりながら熱弁を振るう営業マン。しかし、向かいに座る佐藤と社長の頭の上には、微妙なクエスチョンマークが浮かんでいた。
勤怠管理はタイムカードで十分間に合っているし、社員の顔も名前も全員把握している。経理入力も現在のシステムで何の問題もないし、社長のスケジュール調整も事務員との会話数秒で終わる話だ。提案される機能のどれもが、今の山口製作所にはオーバースペックで「ピンとこない」ものばかりだった。
ピンときていない二人の空気を察したのか、営業マンは最後の切り札を出してきた。
「まずは1ヶ月間、お試しで無償利用していただけませんか? 設定もすべて弊社でやりますので! 来週、初期設定に伺います!」
「はぁ……まあ、無料でお試しできるなら……」と、押し切られる形で1ヶ月のトライアル契約を結ぶことになってしまった。
営業マンが帰り、静かになった社長室で二人は顔を見合わせた。
「……佐藤くん、正直どう思う?」
「うーん……便利なんでしょうけど、正直僕らが前向きに使いこなしてる未来が全然見えないですね」
「だよねぇ。うちの現場の職人たちに『明日から顔認証で入れ』って言っても、絶対に『めんどくさい!』って言われるのが目に見えてるよ」
二人で思わず苦笑いを浮かべた。
「まあ、せっかく無償で設定してくれるっていうんだし、適当にいじってみるか」
「そうですね。とりあえず来週来てもらって、使えるか試してみましょう」
まったく気乗りしないまま、山口製作所に突如として「AIお試し導入」の波が押し寄せようとしていた。




