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僕が逃げた利器と得た安住  作者: 藤一


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冬支度と、木の上で実る幸せ

山菜狩りから季節は巡り、東北の地にいよいよ冬の足音が近づいてきた。初雪が降る前にやらなければならないのが、大事な樹木を雪の重みから守る「雪囲い」だ。

佐藤家の庭は木が少ないため、日曜の朝から両親と縄を掛け、竹を組んで固定する作業に取りかかった。「これでもう、いつ雪が降っても大丈夫だな」と、昼前には無事に作業を終えた。

午後になり、佐藤がサークルの溜まり場へ顔を出すと、農家である渡辺さんが「いやぁ、冬前の準備が山積みで手が回らん!」と頭を抱えていた。

「よし、俺も手伝いますよ!」

佐藤は作業着の袖をまくり上げた。ビニールハウスの補強はすでに終わっていたが、大変なのは露地栽培の野菜たちだ。冬の厳しい寒さと雪から作物を守るため、株元に藁を敷き詰めて保温し、来春に向けた追肥を施していく。黙々と腰をかがめ、広い畑を一つひとつ手作業で覆っていく地道な作業だ。

冷え込みが厳しくなってきた時期だというのに、気がつけば全身からじんわりと汗が噴き出していた。

夢中で作業を続け、あっという間に日が沈んだが、広大な畑の半分も終わらなかった。それでも、冷たい秋風の中で汗を流す身体には、どこか心地よい爽快感と確かな手応えが残っていた。

「助かったよ佐藤くん! さあ、上がって飯にしよう!」

作業後、渡辺さんの家で夕飯をご馳走になることになった。

食卓には、採れたての新鮮な冬野菜を使った温かい鍋や煮物がズラリと並び、さらには食後のデザートとして葡萄やりんごが惜しげもなく出された。

「この果物、木の上でギリギリまで完熟させてから獲ったやつなんだ。市場に出すやつとは甘みが違うぞ」

勧められるまま口に運ぶと、ジュワッと溢れ出す果汁と濃厚な甘みが口いっぱいに広がり、佐藤は思わず目を丸くした。スーパーで買うものとはまるで別物の、格別の美味しさだった。

(東京にいた頃は、こんな風に季節の移り変わりを感じながら汗を流して、採れたての美味しいものを食べる生活なんて想像もできなかったな……なんか最近、すごく幸せだな)

ふと胸の奥から温かい感情が込み上げ、感慨にふけってしまう佐藤。しかし、渡辺さんが「がはは! さあ佐藤くん、冷えたビールを飲んでくれ!」とグラスを差し出してくると、しんみりした空気は一瞬で吹き飛んだ。

「いただきます!」と勢いよく飲み干せば、いつもの愉快で楽しい時間が流れていく。

すっかり夜も更け、渡辺さんの家を辞した帰り道。

冷たい夜空に白く吐く息を吐きながら、佐藤は夜道をゆっくりと歩いた。この街へ来て得たたくさんの仲間、自分の手で汗を流す喜び、そして豊かな自然の恵み。

自分の足で踏みしめる静かな冬の夜道で、佐藤は改めて、自分が手に入れた「最高の幸せと贅沢」を噛み締めるのだった。

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