手離しの秋と、山からの恵み
市役所に「オープンファクトリー推進班」が発足し、佐藤たちは手作りの設営マニュアルやノウハウをすべて引き継いだ。
「これからは市役所さんが主役ですよ! 俺たちはただの参加者に戻りますからね」
「本当に助かりました! あとは僕たちに任せてください!」
イベントプロデューサーになりたいわけじゃない。運営の手離れが無事に完了し、サークルメンバーは「やっぱり俺たちは自分たちの手で何か作ったり遊んだりするのが一番だな」と心底ほっとした。
イベントの頭脳労働から解放されたおじさんたちが次に目を向けたのは、深まりゆく「秋の味覚」だった。
許可をもらっている地元の山に入り、佐藤たちは落ち葉を踏みしめながら山菜とキノコを探して歩いた。澄んだ山の空気の中で目を凝らすと、ナメコやシメジ、立派なマイタケに、季節外れの遅生れの山菜が次々と見つかる。袋いっぱいに秋の恵みを詰め込み、大満足で山を降りた。
渡辺さんの作業場に戻ると、念のため山の管理にも詳しい地元のおじいさんに収穫物を見せた。
「どれどれ……うん、これは大丈夫だ。これは毒キノコと紛らわしいから捨てような」
安全なものだけを厳選してもらい、今夜のメニューは採れたて食材の「天ぷら会」に決定した。
「よし、衣を作って揚げていくぞ!」
しかし、これが思わぬ難敵だった。水を冷たく保ち、混ぜすぎないように衣を作るのだが、いざ油に入れると衣がうまくつかなかったり、べたついてしまったりする。
「うわ、衣がはがれた! 水分が多いのか?」
「油の温度が高すぎるんじゃないか? 180度をキープするのって難しいな!」
溶接や木工ではプロ顔負けの技術を見せるおじさんたちが、天ぷらの「衣を綺麗につけてカラッと揚げる」という単純で奥深い作業に四苦八苦した。試行錯誤を繰り返し、サクッと軽い音を立てる黄金色の天ぷらが揚がった時には、思わず歓声が上がった。
揚げたてのマイタケの天ぷらに少しの塩を振り、口に運ぶ。口いっぱいに広がる芳醇な香りとジューシーな旨味に、全員が言葉を失った。
作業場の軒先に置いた手作りの木製ベンチに腰掛け、冷えたお酒を傾ける。
見上げれば、澄み渡った秋の夜空に綺麗な月が浮かび、虫の音が心地よく響いていた。自分たちの手で収穫し、苦労して揚げた料理を味わいながら、佐藤たちはしっとりと秋の夜の贅沢な時間に浸るのだった。




