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僕が逃げた利器と得た安住  作者: 藤一


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開場のベルと、活気に包まれた工場

「平日の午後だし、最初はパラパラと来るくらいだろう」

そう思っていた佐藤の予想は、良い意味で大きく裏切られることになった。開場15分前を過ぎた頃から、会社の敷地前には徐々に人の列ができ始めていたのだ。

列の中に小さな子供を連れた親子連れの姿を見つけ、佐藤は驚いて声をかけた。

「あれ、こんにちは! 今日は平日ですけど、学校はお休みだったんですか?」

「あ、おじさん! 今日は学校が短縮授業で午前中で終わったんだよ! お母さんと一緒に、なんか美味しそうな匂いがしたからご飯食べに来たの!」

隣のお母さんと顔を見合わせながら元気に答える子供の笑顔に、佐藤は思わず目を細めた。偶然のタイミングとはいえ、地元の子供たちに自分たちの職場やモノづくりの現場を見てもらえる絶好の機会だ。

(この子たちの記憶に、少しでも『うちの町の工場ってカッコいいな』って残ってくれたら嬉しいな)

そんな期待を胸に、ついに開場の時間を迎えた。

この時点で集まった人数は、なんと50人近く。安全を考慮し、同僚たちが10人単位のグループに分かれて工場内へと案内をスタートした。

「うわぁ、見てこれ! 木の看板もベンチも全部手作りだって!」

「このセピア色の写真、すごく渋くてカッコいいわねぇ」

展示エリアからは、来場客たちの感嘆と楽しそうな会話が次々と聞こえてくる。その声を聞きながら、佐藤は胸を撫で下ろし、心からホッとした。

ふと工場奥の見学ルートに目をやると、普段は無口なベテラン職人さんが、見学者に向かって身乗り出しながら熱弁を振るっていた。

「いいかい、このネジの精度は0.01ミリ単位で削り出してるんだ。うちの技術じゃないとこの滑らかさは出ないんだよ!」

誇らしげに自慢する職人さんの横では、渡辺さんや高橋さんたちサークルメンバーも「このパーテーションも俺たちが週末にDIYで作ったんだぞ!」と負けじと自慢話に花を咲かせている。案内する側も見学する側も、誰もがイキイキとした笑顔を浮かべていた。

見学を終えた人たちが外のエリアに流れ込むと、商工会の屋台からは香ばしいソースの匂いが漂い、境内のお祭りのような活気に包まれた。

子供たちが手作りのノベルティを嬉しそうに掲げ、大人たちが軽食を片手に職人たちと語り合う。

佐藤とおじさんたちが手探りで始めた「本気の文化祭」は、想像を遥かに超える温かい熱気と共に、素晴らしいスタートを切ったのだった。

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