拡大する波紋と、現実的なブレーキ
月曜日の朝。完成したパンフレットを抱えて市役所の地域振興課を訪れると、窓口の職員は渡された用紙を二度見し、そのまま絶句した。
「……佐藤さん。これ、ちょっと話がデカくなりすぎてません……!?」
『大人の本気の文化祭&工場見学フェア』と書かれたカラフルなパンフレットには、手作りのウェルカム看板から木製ベンチ、ノベルティ配布に特設展示まで、およそ一企業の工場見学とは思えない大掛かりな企画がぎっしり詰まっていた。
「これ、本当にこの規模で募集かけちゃっていいんですか? 最初は20〜30人くらいの小規模な見学を想定していたんですけど……正直、この内容でその人数だけなんて勿体なさすぎますよ!」
頭を抱えながらも、職員の目がギラリと光った。
「ここまでやるなら、街の商工会にも声をかけて、敷地内に軽食の出店やキッチンカーなんかも呼びたいなぁ……。あ、でも会社見学でそんなに大勢の人が敷地内に入るのは流石に危険ですよね……」
腕を組み、う唸りながら考え始める職員。
「工場内の見学ルートは人数制限をかけて……待機場所として会社の敷地の端っこをお借りできれば、外に何人待機できるか……」
メモ用紙に電卓を叩きながら人数計算を始めた職員は、ふと思い立ったように佐藤の顔を見た。
「あの、佐藤さん。これもし評判が良かったら、毎月定期開催にしていただくことって可能ですか?」
「えっ!? 毎月ですか!?」
「商工会やキッチンカーも巻き込むとなると、1回限りじゃ勿体なくて。市としてもぜひ定期イベントにしたいんです!」
流石に自分の独断で答えられる範囲を超えていた。
「申し訳ないですが、毎月となると社長や手伝ってくれる仲間にも確認しないと返事できません。一度持ち帰らせてください」
会社に戻り、事の顛末を社長に報告すると、社長は「ハハハ!」と豪快に笑った。
「毎月かい! 面白いねぇ。うちとしては業務に支障が出ない範囲で、参加してくれるみんなが協力してくれるなら、良い会社の宣伝になるし全然構わないよー」
どこまでも太っ腹な社長の承諾を得て、次は最大の功労者であるサークルメンバーの元へ向かった。渡辺さんの作業場で「市役所から毎月開催の打診があったんだけど……」と切り出すと、おじさんたちは一瞬パーッと顔を輝かせた。
「毎月祭りができるのか! 最高じゃ……」と言いかけた渡辺さんだったが、すぐに小林さんと高橋さんと顔を見合わせ、冷静になった。
「いや……やりたいのは山々だけどさ。俺たちも普段の本業(農業や呉服屋)があるからなぁ。毎月このクオリティで準備するのは流石に体力が持たんぞ」
「そうですね。それに、まずは今月末の第1回が無事に成功するかどうか試してみないと、机上の空論になっちゃいますしね」
おじさんたちの現実的で地に足のついた意見に、佐藤も深く頷いた。
「ですね。一回やってみて、課題を洗い出してから考えましょう」
その足で市役所へ戻り、「前向きに検討しますが、まずは初回を無事に成功させてから、今後の定期化については相談させてください」と正式に回答した。
暴走しそうになる自治体の期待をうまくコントロールしつつ、おじさんたちの足並みはしっかりと揃った。手作り感あふれる「第1回・大人の本気の文化祭」に向けて、着々と準備は最終段階へと向かっていくのだった。




