市役所からの電話と、ぶっつけ本番の会社見学計画
金曜日の昼下がり、静かなオフィスにオフィスの電話のベルが鳴り響いた。
「はい、山口製作所でございます……あ、市役所の地域振興課の方ですか?」
受話器を取った事務員から引き継ぎ、佐藤は受話器を耳に当てた。市役所から会社にかかってくる電話など、先日の写真の件以来なので嫌な予感しかしない。
「いやぁ佐藤さん! 驚かないでください。ロビーに飾らせてもらったセピア色の工場写真を見た市民の方から、『実際にあの職人さんたちの働くところを見てみたい』って問い合わせが殺到しているんですよ!」
「えっ……見学ですか!?」
「そうなんです。市としても予想外の反響でして。特に町おこしだなんて大げさなものじゃないんですが、せっかくの地元企業への関心ですし、やってみませんか?」
寝耳に水の話に戸惑いながらも、佐藤は社長室のドアをノックして報告した。事情を聞いた社長は、少し腕を組んで考え込んだが、すぐに太っ腹な笑みを浮かべた。
「ほう、うちの職人たちの仕事ぶりに興味を持ってくれたのか。悪い気はしないな。普段の業務に支障が出ない日なら、前向きに考えたいねぇ」
社長の快諾を得て、トントン拍子で「会社見学イベント」の開催が決定した。しかし、見学ルートや段取りを決める担当には、なぜかそのまま佐藤が指名されてしまう。
「よし、佐藤くん。どこをどう見せるかのルート作りは君に丸投げするから、いい感じに頼むよ!」
「ええっ、丸投げですか!?」
とはいえ、始まったからにはやるしかない。佐藤はデスクに戻ると、さっそく頭を悩ませながら緻密なスケジュールと見学ルートの計画を練り始めた。
まず何より避けるべきなのは、職人たちがフル稼働する繁忙期や、製品の出荷・納品で慌ただしくなる曜日だ。工場の安全確保も考慮し、比較的動きが落ち着いている「月末の週」を狙うことにした。
「お試しでの初回開催だし、まずは木曜日の午後にしよう」
曜日と時間をピンポイントで設定すると、次は工場内のルート選定だ。ただ作業を見せるだけでは面白くない。どうせなら会社のメジャーな製品や技術の凄さが一目で伝わり、さりげない宣伝になるような動線を組み立てる必要がある。
エントランスを入ってすぐの場所に、これまで作ってきた誇らしい製品のサンプルやパネルを並べる特設スペースを設置する。そこから、大迫力の溶接やプレス加工を安全なガラス越しに見学できる通路を抜け、最後は職人たちのこだわりを聞けるショールームへ案内するルートだ。
「よし、これなら業務の邪魔にもならないし、会社の技術アピールとしてもバッチリだ……!」
地図とスケジュール帳にびっしりと書き込みながら、佐藤は手応えを感じていた。
写真の現像から始まった遊び心が見事に波及し、まさか町の小さな工場見学イベントへと発展していく。自分の暮らすこの場所で、思いがけない新しい風が吹き始めていることを感じながら、佐藤は翌週の初開催に向けて準備を進めるのだった。




