会社の日常と、市役所に溢れたセピア色の写真
翌朝出社すると、案の定オフィスでは市役所に飾られていた佐藤の写真の件で持ちきりになっていた。
「佐藤くん、写真展のアイドルだったんだって?」
「冷やかさないでくださいよ~」
照れくさそうに頭をかきながら返していると、奥の社長室から噂を聞きつけた社長が顔を出した。
「なんだなんだ、佐藤くんの写真が市役所でそんなに評判良かったのか! いやぁ、見に行きたかったなぁ。見せてくれないのかい?」
「勘弁してください社長、流石にもう恥ずかしくて無理です!」
佐藤が必死に断ると、社長は腕を組んでにやりと笑った。
「それならさ、今度うちの会社の働く風景も何枚か撮ってくれないか? 職場のパンフレットとかホームページにも使いたいしさ」
断る理由もなく、佐藤は「サークルのメンバーに相談してみます」と引き受けた。その日の夜、渡辺さんの作業場でおじさんたちに話すと、「おお! 会社の撮影か! いいよー!」と全員一致で即答だった。
こうして金曜日の午後、高橋さんの一眼レフを携えたサークルメンバーが山口製作所にやってきた。
重厚な機械を動かす職人たちの真剣な眼差し、スパークする溶接の光、事務所で電話を受けるデスクワークの風景。会社の中をみんなでゾロゾロと回りながら、カシャン、カシャンとシャッターを切っていく。
現像は翌日の土曜日にやることになり、土曜の朝一番で例の写真専門店へ向かった。
店頭の棚を覗くと、今回は標準的なモノクロ調だけでなく、温かみのあるセピア調に仕上がる調色液や、風合いの異なる様々なタイプの印画紙が並んでいた。
「うわ……セピア調なんてあるんだ! これ、試してみたいですね!」
「よし、色々買い込んで全部実験してみようぜ!」
おじさんたちの探究心に再び火がつき、両手いっぱいに薬品と印画紙を買い込んだ。
案の定、作業は土曜日だけでは終わらなかった。日曜日も朝から全員で暗室に引きこもり、照射時間や薬品の組み合わせをミリ単位で変えながら、怒涛の現像作業に没頭した。
そして月曜日。
佐藤は段ボール箱いっぱいに詰まった、凄まじいバリエーションと枚数の写真を持って出社した。深みのあるセピア色の職人たち、コントラストの効いた工場萌えのような機械のカット、柔らかい光に包まれた事務所風景……どれもプロ顔負けの味がある写真ばかりだ。
「うおぉぉ……! すごい! すごいよ佐藤くん!」
社長は大興奮で写真を広げ、「よし、これを全部会社の廊下に展示しよう!」と息巻いた。しかし、流石に数が多すぎて全枚数を社内に飾るのは物理的に不可能だった。
「社長、流石にこれはスペース的に無理です! 溢れた分はどうしましょう……」
頭を抱えた佐藤は、ふと思い立って市役所の地域振興課へ連絡を入れた。
「……というわけで、会社の写真を撮ったらたくさん出来すぎてしまって。良かったら使っていただけませんか?」
写真を持って市役所へ向かうと、例の職員さんは苦笑いしながらも、ずらりと並べられたセピア色の写真を見て目を輝かせた。
「ははは、相変わらず凄い熱量ですね! でもこれ、本当に面白いですよ。ちょうど前回の展示期間が終わって次の内容を探していたところなんです。タイミングもバッチリなので、さっそく展示の準備をさせていただきますね!」
こうして、市役所のロビーには山口製作所の職人たちや会社の日常を切り取った、味のあるセピア色の写真たちがズラリと飾られることになった。
市民や来庁者たちが「かっこいい工場だねぇ」「地元の会社も捨てたもんじゃないね」と足を止めて見入る姿を想像しながら、佐藤はまた一つ、この街に自分たちの足跡を残せた満足感に浸るのだった。




