市役所の写真展と、回収されたお見合い写真
「いやぁ、今日のこの空の写真、影の出方が絶妙で渋いよなぁ!」
「佐藤くんのこの横顔も、なんか映画のワンシーンみたいじゃない?」
夕食に入った定食屋で、出来上がったばかりのモノクロ写真をテーブルいっぱいに広げ、おじさんたちはビールを片手に互いの作品を褒めちぎっていた。
すると、隣のテーブルで食事をしていたスーツ姿の男性が「すみません……」と声をかけてきた。
「突然申し訳ありません。私、市役所の地域振興課の者なんですが、さっきからその写真を拝見していまして……すごく温かみのあって、見ているだけでなんだかほんわかする素敵な写真ばかりですね」
職員の男性は目を輝かせながら写真を眺めた。
「実は今度、市役所のロビーで『街の魅力再発見展』という小さな展示企画をやるんです。もしよろしければ、その写真を市民の皆さんに見てもらえるように飾らせていただけないでしょうか?」
「えっ! 市役所に飾るの!?」
自分たちが楽しむためだけに撮り、夢中で現像した写真がそんな評価を受けるとは思いもしなかった。
「僕たち素人が撮った写真で良ければ、用途もないし全部持っていってください!」
おじさんたちは大喜びで、現像したばかりの写真を束ごとドッサリと職員に渡してしまった。……その束の中に、あのお見合い写真が含まれていることなど、誰一人として気づくことなく。
翌々日、会社で仕事をしていると、同僚がニヤニヤしながら佐藤のデスクにやってきた。
「佐藤くーん、今朝市役所に書類出しに行ってきたんだけどさ……ロビーで何やってんの?」
「はい? 市役所? 何のことですか?」
「いやさ、綺麗なモノクロ写真が飾ってあるコーナーがあってさ。その真ん中に、佐藤くんがバシッとキメ顔で写ってる写真が飾られて『佐藤(〇〇製作所)』って名札まで添えられてたよ。あれ何? 新手の婚活アピールか何か?」
「……えっ!?」
佐藤は血の気が引くのを感じた。あの夜、市役所の職員に渡した写真の束。その中に、一番最初にテストで撮影したあのお見合い写真が混ざっていたのだ。
「や、やばい……!!」
退勤鈴が鳴ると同時に、佐藤は走って市役所へと向かった。
ロビーに到着すると、展示スペースの一等地に、引き伸ばし機でバッチリ綺麗に露光された自分のキメ顔写真が誇らしげに飾られていた。通りかかる市民が「あら、この人かしら」「若い男の人ねぇ」と眺めている。
「す、すみません! これ、僕の写真なんですけど回収させてください!」
案内板の横にいた例の職員に慌てて声をかけると、職員は驚いた顔をした。
「えっ! 佐藤さん! どうしたんですか? この写真、来庁者の方々から『なんか誠実そうで素敵な人ね』ってすごく評判が良いんですよ!」
「いやいやいや! 評判が良くても困るんです! これ、実はお見合い用に撮ったやつで……流石にこんなところで公開処刑されるのは恥ずかしすぎます!」
「そうだったんですか……! 残念ですが、ご本人の写真なら仕方ないですね」
冷や汗をかきながら写真をパネルからひっ剥がし、佐藤は逃げるように市役所を後にした。
家に帰り着くと、玄関でちょうどあの叔母さんと母さんが話をしていた。
「でね、佐藤ちゃん、先方からのお返事はどうなんだい?」
「あ、叔母さん……」
佐藤がげっそりした顔で立っていると、母さんが申し訳なさそうに叔母さんへ断りを入れてくれた。
「ごめんねぇ。せっかく良いお話持ってきてくれたんだけど、息子も今は仕事とこの街の暮らしで手一杯みたいでさ。今回はお断りさせてちょうだい」
「あらぁ……そうかい? 叔母さん、自信あったんだけどなぁ」
残念がる叔母さんに、佐藤はカバンから回収してきたばかりの「例の写真」を取り出して差し出した。
「叔母さん、わざわざ気にかけてくれてありがとうございました。でもほら、僕の写真ってこれですよ? 自分でも現像してみたんですけど……こんなパッとしないおじさん、先方のお嬢さんも望まないでしょう?」
渡されたモノクロ写真を見た叔母さんは、「あら……」と写真をかざした。
「……あらぁ! でもこれ、すごく味があって良い写真じゃない! おじさんだなんて、そんなことないわよぉ」
「いやいや、完全に昭和のおじさんですよ。だから今回は本当にすみません!」
苦笑いしながら頭を下げる佐藤の横で、母さんも「まあまあ」とお茶を淹れ直している。お見合いの話は無事に角を立てずに断ることができ、佐藤はほっと胸を撫で下ろした。
(市役所に飾られたのは寿命が縮む思いだったけど……まあ、これもフィルムカメラの思い出か)
回収してきた自分の写真を眺めながら、佐藤は田舎ならではの騒がしくも温かい日常に、思わず口元を緩めるのだった。




