光と秒数の魔法と、夕暮れの腹ペコ
息を切らして坂本写真館に駆け込んだ佐藤たちを、先生は「ハハハ! いちばん肝心なところを忘れていっちゃったかい」と温かく迎え入れてくれた。
店舗の奥から引っ張り出してきてくれたのは、フィルムのネガ像を印画紙に投影するための引き伸ばし機だ。
「いいかい、写真ってのは光の彫刻なんだよ。引き伸ばし機のレンズの絞りで光の強弱を調整して、照射時間を何秒……いや、コンマ何秒単位で変えるだけで、まったく違う表情の写真になるんだ」
先生は実際に機器を操作しながら、テスト露光のやり方を丁寧に教えてくれた。あえて光を長く当てて黒をきりっと引き締めるやり方や、逆に短くして柔らかい雰囲気に仕上げる技術。さらには、手や紙を使って部分的に光を遮る覆い焼きや焼き増しというプロの技まで伝授してもらった。
「なるほど……! 秒単位の光のコントロールで、こんなに世界が変わるのか!」
おじさんたちは目から鱗が落ちる思いでノートにメモを取り、お礼を言って再び渡辺さんの暗室へと舞い戻った。
赤い光が怪しく灯る密室の中、冷気と薬液の独特な匂いが漂う。
まずは本題である佐藤のお見合い写真の現像からスタートした。教わった通りの標準的な照射時間と絞りで印画紙に光を当て、現像液のバットに静かに浸す。薬液の中でゆらゆらと揺らしていると、真っ白だった紙の上に、じわぁ……っと佐藤の姿が浮かんできた。
「出た! 出てきたぞ!」
「うわぁ、すごい……! 本当に写真になってる!」
まるで魔法を見ているかのような光景に、大人たちが子どもみたいに声をあげて歓声を上げた。お見合い写真はバッチリ綺麗に印画でき、まずは第一関門クリアだ。
しかし、ここからおじさんたちのDIY魂と実験欲が完全に爆発した。
「よし、次は街で撮った写真で色々なパターンを試してみようぜ!」
「さっき先生に教わった照射時間をコンバインのやつでやってみよう。照射時間を3秒伸ばしたらどうなる?」
「ちょっと光を強くして、背景だけ影を濃くしてみよう!」
露光時間を1秒、0.5秒単位で変えてみたり、光の強弱を調整したりしながら、何パターンも焼き付けていく。現像液から引き揚げ、定着液に移し、水洗いをするたびに、「おお! こっちの方が渋くてカッコいい!」「いや、こっちは少し明るすぎて白飛びしたな!」と大盛り上がり。
すっかり夢中になってしまい、気がつけば買ってきたはずの印画紙の束は一枚残らず使い切っていた。暗室の扉を開けると、いつの間にか外は綺麗に茜色に染まる夕方になっていた。
「いやぁ……やりきったな! 印画紙がなくなっちゃうまで没頭するとは思わなかったよ」
「目も手もクタクタだけど、めちゃくちゃ面白かったなぁ!」
ずらりと並べられた、世界に一枚だけの味のあるモノクロ写真たちを見つめながら、佐藤たちは心地よい達成感に包まれていた。
「今日も本当に充実した一日だったね。……あ! そういえば昼飯食うのも忘れて集中してたから、お腹ペコペコだよ!」
「ガハハ! 確かに! よし、今夜はガッツリ美味いもん食いに行こうぜ!」
写真を乾かす作業を済ませたおじさんたちは、達成感とお腹の空き具合を抱えながら、賑やかに夕食の街へと繰り出すのだった。




