闇を創る男たちと、赤い光の予感
週末。フィルム現像プロジェクトの第一歩として、佐藤たちはまず足りない資材を買い揃えるため、いつもの大型ホームセンターへと向かった。
メモを手に店内を歩き回る。
「温度管理用のポータブルクーラーと遮光シート、バケツはあったぞ!」
しかし、肝心の赤色電球、印画紙、現像液(薬品)の3点が見当たらない。棚をくまなく探したが見つからず、店員さんに尋ねてみることにした。
「すみません、フィルム現像用の赤色セーフライトや現像液って置いてありますか?」
「あぁ……申し訳ありません。昔は置いていたんですが、今は流石に需要が少なすぎて在庫を置いていないんですよ」
やはりホームセンターでも手に入らないかと苦笑いしつつ、佐藤たちは先日の「坂本写真館」のおじいさんの元へ向かった。
事情を話すと、店主のおじいさんは「なんだ、そんなことかい!」と破顔した。
「うちの店で使っていた機材や薬品の余りでよければ、古くて良けりゃあ全部あげるよ? もし新品が良いなら、隣町の専門取り扱い店を紹介するけど、どうするい?」
「新品である理由なんて全くないですよ! 先生(店主)が使っていた歴史ある機材を使わせてもらえるなら、むしろその方が嬉しいです!」
「そう言ってもらえると嬉しいねぇ。ただ、印画紙だけは感光材料だから、あまりに古いと劣化して使い物にならん。印画紙だけは紹介するお店で新しいのを買っておいで」
有難く機材と現像液を譲り受けた佐藤たちは、おじいさんに教えてもらった隣町の写真専門店へと車を走らせた。
専門店のカウンターで「フィルム現像を初めてやるんです」と伝えると、親切な店員さんが丁寧に対応してくれた。
「初心者の方でしたら、コントラストの調整がしやすい多階調の印画紙が一番扱いやすいですよ。サイズは使いやすいL判と、少し大きめの六切サイズが良い候補ですね」
プロの提案を受け、「じゃあ、その入門用のセットでお願いします!」と印画紙を購入。これで必要な道具はすべて完璧に揃った。
渡辺さんの作業場に戻り、さっそく「仮設暗室作り」がスタートした。
今回のDIYで最も重要なのは「完全なる遮光」だ。少しでも光が漏れれば、貴重なフィルムや印画紙が一瞬で駄目になってしまう。
渡辺さんの納屋の小部屋を選び、窓やドアの隙間に遮光シートを何重にも貼り付けていく。
「佐藤くん、そっちのコーナー、ほんの少し隙間から光が入ってるぞ!」
「了解です! 黒のガムテープで完全に塞ぎます!」
ミリ単位で光の漏れをチェックする作業は、まさに職人技。徹底的に光を遮断し、ドアの縁には隙間風防止のゴムパッキンを敷き詰めていく。
集中して作業を続けていると、あっという間に時計の針は20時を回っていた。
「よし、今日はここまで! 焦って適当にやると失敗するから、組み立てとテストは明日に回そう」
渡辺さんの提案で作業を切り上げると、おじさんたちは作業場の中央に集まった。
それぞれが持ち寄った冷えた缶ビール、渡辺さんの奥さんが作ってくれた煮物、高橋さんが持ってきたおつまみをテーブルに広げる。
プシュッ! と缶を開ける快音が響いた。
「いやぁ、光を消す作業って、いつもの『作る作業』と違って新鮮で面白いな!」
「明日はついに、あの暗室の中に『赤色電球』を灯すわけだな……なんか男の秘密基地って感じでワクワクするよ」
「佐藤くんの奇跡の一枚を撮って、印画紙に浮かび上がらせようぜ!」
ビールを酌み交わしながら、明日の暗室完成と「初現像」に向けた作戦会議が夜遅くまで盛り上がった。
暗闇の中に赤い光が灯るその瞬間を思い浮かべながら、おじさんたちの胸の高鳴りは止まらなかった。




