お見合い写真と、昭和レトロなフィルム写真
日曜日、実家のリビングでまったり過ごしていると、玄関の引き戸がガラガラと開いた。
「ごめんよー! 佐藤ちゃん、いるかい!?」
やってきたのは、近所に住むお喋りな叔母さんだ。手には何やら大切そうな風呂敷包みを抱えている。それを見た母さんは「ハァ……また始まった」と言いたげな呆れ顔を浮かべていた。
「佐藤ちゃん! ちょうどいいところにいた! これね、すっごく良いお話しなのよ!」
ジャジャーンと広げられたのは、重厚な台紙に収められた一枚の「お見合い写真」だった。
「隣町の老舗の娘さんでね、育ちも良くて気立ても素晴らしいのよ! 佐藤ちゃん、そろそろどうかい?」
せっかくなので写真を見させてもらうと、そこには着物姿の本当におしとやかで素敵な女性が写っていた。だが、どう見ても自分には不釣り合いすぎる。「いやいや、僕には勿体なさすぎるでしょう……」と自覚がある佐藤は、横にいた母さんにコッソリ耳打ちした。
「母さん、申し訳ないけど今回は角が立たないように上手く断っておいて……!」
「はいはい、分かってるわよ」
お見合いのプレッシャーから逃げるように、佐藤は「ちょっとサークルの集まりがあるから!」と理由をつけて家を飛び出した。
渡辺さんの作業場に逃げ込み、息を弾ませながら今朝の出来事を話すと、おじさんたちは「ガハハ!」と大爆笑した。
「佐藤くん、そりゃあ田舎あるあるだよ! 独身の若い男が一人で住み始めたら、近所のおばちゃんたちのお見合いターゲット第一号になるのは決まりだからね!」
「田舎のネットワークを舐めちゃいかんよ〜」と小林さんもお茶をすする。誰も驚く様子もなく、むしろ「普通の日常」として受け止められていることに、佐藤は思わず脱力した。
すると、呉服屋の店主でもある高橋さんが顎をさすりながら提案してきた。
「でもさ、断るにしても、相手に送る『佐藤くんの紹介写真』が一枚もないのは格好がつかないんじゃないかい? 逆にこっちから最高に格好いい佐藤くん写真を撮って送ってやろうよ!」
「いいねぇ! 写真撮影か!」渡辺さんが乗り気になる。
高橋さんは一度自宅に戻ると、「とっておきのを持って来たよ」と重厚な革ケースを大事そうに抱えて戻ってきた。中から出てきたのは、金属のずっしりとした重みがある古風な**「フィルムの一眼レフカメラ」**だった。
「スマホやデジカメじゃ味がないだろ? 昔ながらの銀塩フィルムで撮るんだよ」
「うわ……フィルムカメラですか! 格好いい……!」
ファインダーを覗き、手動でピントを合わせるカチカチというダイヤルの感触。カシャン!という重みのあるシャッター音。デジタルにはない独特のロマンに、佐藤たちの男心がくすぐられた。
「待てよ……せっかくフィルムで撮るなら、自分たちで『現像』までやってみたくないか!?」
「現像!? 自分たちでできるんですか!?」
「調べてみようぜ!」
男たちの好奇心に火がついた。みんなでスマホを取り出し、フィルム現像に必要な道具や手順を検索し始める。現像液、定着液、ダークバッグ、そして印画紙(引き伸ばし用の紙)……。
「これ、もっと詳しく知りたいな。あ! 去年閉店しちゃった駅前の『坂本写真館』のおじいちゃん、まだ裏の自宅に住んでるはずだぞ!」
思い立ったら即行動のDIYサークルだ。全員で車に乗り込み、今はシャッターが下りている街の写真屋さんの自宅を訪ねた。
元店主のおじいさんは、突然やってきたおじさんたちの「フィルムの現像を自分たちでやりたいんです!」という熱意に目を丸くしながらも、とても嬉しそうに迎え入れてくれた。
「ほう、今の若い(?)人がフィルム現像かい! 懐かしいなぁ。現像液の温度管理は1度ズレてもダメなんだよ。暗室での印画紙への焼き付け(露光)はな、赤色電球の下でじわ〜っと像が浮かび上がってくる瞬間がたまらんのだ……」
おじいさんから語られる、暗室の作り方、薬液の希釈、印画紙の使い方などのプロのノウハウ。
「よし……! 道具を揃えて、渡辺さんの納屋の一部を『仮設の暗室』に改造しよう!」
お見合い写真を断る口実から始まった話は、気付けば「昭和レトロな暗室DIY&自家現像プロジェクト」へと大きく膨れ上がっていくのだった。




