実りの秋と、近代農業の衝撃
9月下旬。朝晩の風に冷たさが混じり始め、連日の酷暑が嘘のように過ごしやすい季節が訪れていた。田んぼの穂は黄金色に輝き、風が吹くたびに波のように揺れている。
この時期、田舎の農家にとって一年で最も忙しい「稲刈り」の最盛期を迎えていた。
渡辺さんの家は、この地域では中堅規模となる10枚以上の田んぼを所有している。だが、作業をするのは基本的に渡辺さんと奥さん、それにおじいちゃんの家族3人のみ。猫の手も借りたい超・繁忙期だ。
「よし! 今週末はDIYサークルの出動だな!」
佐藤、小林さん、高橋さんの3人は作業着に長靴というスタイルで、渡辺さんの田んぼへと駆けつけた。
「みんな、助かるよー! 10枚もあるから、人が手伝ってくれるだけでも本当にありがたいんだ」
渡辺さんに案内され、佐藤は人生で初めて「コンバイン」という大型の収穫機械に乗せてもらうことになった。
「佐藤くん、このレバーを入れて、前を見てゆっくり進むだけでいいからな」
「えっ、僕が動かして大丈夫なんですか!?」
緊張しながら運転席に座り、レバーを入れる。ガガガガと重厚なエンジン音とともにコンバインが前進し、目の前の黄金色の稲が勢いよく吸い込まれていく。
「うわ……すごい! 自動で刈り取られていく……!」
昔の教科書で見た「鎌で一株ずつ刈り取り、天日干しして、千石簞笥(千歯こき)で脱穀する」というイメージを持っていた佐藤にとって、それはカルチャーショックだった。
今のコンバインは超・ハイテク機械だ。キャタピラで泥の上を力強く進み、稲を刈り取ると同時に機械内部で脱穀まで完了してしまう。刈り取られた籾は、コンバイン内部のタンクにどんどん溜まっていく仕組みだ。
タンクがいっぱいになると、長いノズル(排出オーガ)がウィーンと伸び、待機していた軽トラの荷台に設置された専用の巨大な収穫ボックスへ、黄金色の籾がザーッと流し込まれていく。
「よし、軽トラがいっぱいになったから、家に持って行って乾燥機に投入するぞ!」
軽トラを渡辺さんの自宅兼作業場へ走らせると、そこには巨大なタワーのような「籾乾燥機」が鎮座していた。
軽トラからホースを繋ぎ、籾を乾燥機の中へと送り込んでいく。水分量を均一にし、美味しく保存するために、この乾燥作業が最も重要になるのだという。
「機械が勝手にやってくれるとはいえ、途中で詰まったり温度設定が狂うと一発で米がダメになるからな。人はずっと様子を見てなきゃいけないんだ」
渡辺さんがメーターを鋭い目で見つめながら説明してくれる。
刈り取り、運搬、乾燥機への投入、そして状況の監視——。
朝から夕方まで全員で汗を流して集中し、丸一日かけてようやく「田んぼ1枚分」の作業が終わった。
「ふぅぁぁ……! たった1枚でこれか……!」
夕日に照らされる田んぼの横で、佐藤はペタリと座り込んだ。
機械化されて楽になっているとはいえ、重労働であることに変わりはない。何より「米を作る」というプロセスが、自分の知っていた教科書の知識とはまるで違うことに深い感銘を受けていた。
(鎌で刈って千歯こき……なんてのは何十年も前の話なんだな。実際の現場に出てみないと分からないことばかりだ)
泥の匂いと、甘く香ばしい籾の香り。
手作業と最新機械のハイブリッドで進む現代の農業に触れ、佐藤は自分の「知らない世界」の広さにワクワクしていた。
(田舎暮らしは本当に奥が深いな……。これならまだまだ、サークルのネタに困ることはなさそうだ!)
遠くで渡辺さんの奥さんが「おーい! 新米のおにぎり食べていってー!」と手を振っている。
佐藤はお腹を鳴らしながら、おじさんたちと共に実りの秋の味覚へ向かって走り出すのだった。




