一番客の特権と、満足の爆睡
深夜の乾杯を終え、心地よい酔いと疲れに包まれたおじさんたちは、新しい椅子の座り心地を確かめるようにして、喫茶店の片隅でそのまま浅い眠りについた。
「おい、みんな。朝だぞ、起きろー」
鈴木の声で目を覚ますと、窓の外はすっかり明るくなっていた。時計の針は7時半を指している。開店まであと30分だ。
「う〜ん……! よく寝た……!」
佐藤たちが体を伸ばすと、鈴木がカウンターから湯気の立つコーヒーを運んできた。
「開店前だけど、第一号のお客さんたちに淹れたてをサービスだ。自分たちが作った空間の座り心地、じっくり味わっていってくれよ」
「うわぁ、ありがとうございます!」
出来立ての丸テーブルにコーヒーカップを置き、ふかふかのレザーチェアに深く腰掛ける。
朝の光がレンガ調の壁紙を柔らかく照らし、コーヒーの香りが静かな店内に広がっていく。自分たちの手で作り上げた最高の空間を、誰よりも早く、一番乗りで堪能する贅沢。
「……うん。最高だね」
「自分で作ったと思うと、コーヒーがいつも以上に美味しく感じられますね」
朝の特別な時間を心ゆくまで楽しんだあと、8時の開店直前になると、佐藤たちは「よし、撤収!」と一斉に立ち上がった。
「鈴木さん、開店準備がんばって! 僕たちは裏庭の掃除をしておくから、お客さんの邪魔にならないように裏に回ってるね」
「助かるよ、よろしくな!」
裏庭へ回ると、昨日広げてしまった木くずや塗料の缶、余った部材などを手分けして綺麗に清掃し始めた。
そして11時を回った頃。表の賑やかな気配を感じながら片付けをしていると、「佐藤くーん!」と聞き覚えのある声が聞こえてきた。
裏庭に顔を出したのは、約束通りランチを食べに来てくれた会社の同僚だった。
「お疲れ様! 今、お店でオムライス食べてきたんだけどさ……マジでビックリしたよ!」
同僚は興奮気味に目を輝かせた。
「ドア開けた瞬間『えっ、ここ本当にあの喫茶店!?』って二度見しちゃったもん。シックでめちゃくちゃカッコいいのに、どこか温かくて落ち着くんだよなぁ。とても田舎の喫茶店とは思えないクオリティだよ! あのテーブルの荷物置き棚もすげぇ便利だった!」
「本当!? 良かった〜!」
「職場の他のメンバーもこれから午後にかけて来るって言ってたから、みんな驚くと思うよ!」
「かっこいいけど、どこか懐かしい」——その言葉を聞いた瞬間、佐藤の胸の中に温かい満足感が満ちていった。ただオシャレにするだけでなく、誰もがくつろげる空間を作れたのだと実感できた。
12時前、裏庭の片付けも完全に終わり、ピカピカに元通りになった。
佐藤たちはお店の裏口から鈴木に声をかけた。
「鈴木さん! 片付け全部終わりました! お客さんたくさん入ってて忙しそうだから、僕たちはこれで帰りますね!」
「みんな、本当にありがとう! 会社の人たちもすごく喜んでくれてるよ! またゆっくり飲もうな!」
カウンターの中で忙しく立ち働きながら、鈴木が最高のエプロン姿で手を振ってくれた。
爽やかな昼下がりの風を受けながら自宅に帰りつくと、シャワーを浴びてそのままベッドに倒れ込んだ。
(みんなで楽しめる、最高の場所ができたな……)
壁紙の張り替えからテーブルの完成まで、駆け抜けた日々を思い返しながら目を閉じる。
心地よい達成感と疲労感に包まれながら、佐藤は夕方まで吸い込まれるように気持ちよく爆睡したのだった。




