日没前の精度と、19時半のトースト
18時の定時チャイムが鳴ると同時に、佐藤は速やかに会社を飛び出した。
「お疲れ様でした!」
車を走らせて向かったのは、もちろん鈴木の喫茶店だ。閉店時間の20時を待つ間、お店の裏手にある庭のスペースで先にできる準備を進めておこうと考えたのだ。
到着すると、すでに裏庭には渡辺さんが持ってきてくれた「農作業用の強力LED投光器」がセッティングされていた。夜の畑仕事でも使っているプロ仕様のライトで、あたりは昼間のように明るい。
「よし、まずは採寸とマーキングだ」
佐藤は三角定規とメジャーを手に、無垢の天板や脚用の木工部材へ静かに鉛筆を走らせた。
木ビス(モクネジ)を打ち込む下穴の位置、天板裏の1本脚と荷物置き棚を固定する正確なセンターライン。一ミリのズレも許されないおじさんならではの超・緻密な作業が黙々と続いていく。
18時半を過ぎた頃、「おーい、お待たせ!」と小林さんと高橋さんも合流した。
「佐藤くん、もうマーキング終わってるのか! 手際がいいねぇ!」
「電動ノコギリは音が大きいからね。近所迷惑にならないよう、閉店前の20時までに切断作業だけは絶対に終わらせましょう!」
全員で手分けをして、マーキングが終わった部材から順に電動ノコギリでカットを開始した。
「ウィーーーン!!」と快音が夜の庭に響く。
事前に描いたライン通りにカットされたパーツを、小林さんと高橋さんが分担してサンドペーパーで丁寧に磨き上げ、バリを削って滑らかにしていく。さらにそこへ、渡辺さんが素早くアンティーク調の塗料を塗り重ねていった。
役割分担が見事に噛み合い、作業は驚くほどのハイペースで進んだ。
ふと時計を見ると、時刻はまだ19時30分。
「あれっ……? 20時前どころか、19時半でパーツのカットと塗装準備、全部終わっちゃったぞ!?」
「ガハハ! 俺たちのチームワーク、完璧すぎるだろ!」
予想以上のスピード感にみんなで顔を見合わせて笑っていると、裏口のドアがガラガラと開き、エプロン姿の鈴木が大きなトレイを持って顔を出した。
「みんな、早いな! 残り物で悪いんだけど、温かいコーヒーと小倉トースト、食べてくれよ!」
「うわぁっ! 鈴木さん、最高のタイミングです!」
焼きたてのトーストから漂うバターと小倉あんの甘い香り。作業を止めてトレイを囲み、サクッとしたトーストを口に頬張った。
「う〜ん、美味い……! 身体に染み渡るなぁ」
「コーヒーの苦味がまた最高だね」
甘いトーストで糖分を補給しながら、佐藤は図面を広げた。
「よし……20時に店が閉まったら、乾いたこれらのパーツを店内に運び込んで、いよいよ一気に組み立て開始ですね!」
「天板下の『荷物置き棚』の取り付け手順をもう一回確認しておこう」
「明日の朝、会社のみんなが驚く顔が目に浮かぶなぁ!」
トーストを平らげ、コーヒーを飲み干すおじさんたちの目には、メラメラと燃える情熱の火が灯っていた。いよいよ20時、喫茶店のドアに鍵がかけられ、伝説のオールナイト組み立て作戦が幕を開けようとしていた。




