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僕が逃げた利器と得た安住  作者: 藤一


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期待のプレッシャーと、湧き上がる気合い

金曜日の朝。

今夜の「オールナイト家具施工作戦」を控え、佐藤は勝手に口元がゆるんでしまうのを抑えきれないまま会社へと向かった。廊下ですれ違う社員に「おはようございます!」と元気に挨拶して回るほど、自分でもわかるくらい機嫌が良かった。

昼休み、給湯室でコーヒーを淹れていると、同僚がニヤニヤしながら近づいてきた。

「佐藤くん、朝からめちゃくちゃ機嫌いいじゃん。……今度は一体何をやろうとしてるの?」

「あ、バレた?」佐藤はニッカリと笑った。「実はさ、今夜またあの喫茶店に集合して、今度はあのレンガの壁紙にぴったりの『机と椅子』を自分たちで作るんだよ!」

「マジで!? 今度は家具まで手作りするの!?」同僚は目を丸くした。「じゃあさ、土曜日の朝、さっそくモーニング食べに行って完成品を見させてもらうよ!」

「えっ、本当!? 助かるよ、感想聞かせてね!」

すると、となりのデスクで話を聞いていた別の同僚も会話に入ってきた。

「え、あの喫茶店リノベーションしてるの? 面白そうじゃん! 俺も土曜日、嫁さんと子供連れてランチ食べに行きますよ!」

「あ、じゃあ俺は10時くらいの空いてそうな時間にコーヒー飲みに行こうかな」

「俺は午後のティータイムにしようっと!」

口々に「行くよ!」と手が上がり、気付けば社内のあちこちから「今週末、新しくなったあの喫茶店に行ってみよう」という流れが出来上がっていた。タイミングをずらして、みんなが続々と店を訪れてくれるというのだ。

(うわ……これは、思っていた以上に大ごとになってきたぞ……!)

会社で仕事を終え、おじさんになってから、こんな風に大勢の人から「楽しみにしてるよ!」「期待してるよ!」と直接言われることなんて久しくなかった。

普通ならプレッシャーで押し潰されそうな場面だが、今の佐藤の胸に湧き上がっていたのは逃げ出したい気持ちなどではなく、「絶対に最高の店にして、みんなを驚かせてやる!」という熱い気合いだった。

(みんなの期待に応えたい……! 妥協なんて一切なしで、完璧なテーブルと椅子を作らなきゃ!)

退社後、佐藤は車に乗り込むと、すぐに喫茶店の鈴木へ電話をかけた。

「あ、鈴木さん! 僕です、佐藤です!」

『おお、佐藤くん。いよいよ今夜だな! どうした?』

「鈴木さん……今週末、会社のみんながモーニングからランチ、ティータイムまで、時間をずらして代わる代わるお店に来てくれることになりました! かなりのお客さんが入りそうです!」

電話の向こうで、鈴木が息をのむ気配がした。

『えっ……マジかい!? みんなで来てくれるのか……!?』

「はい! だから今夜の作業、本気で気合い入れて作りましょう! 最高の家具を用意して、みんなを迎え撃ちますよ!」

『よーし……! 聞いただけで震えてきたぞ! 期待に応えないと男がすたるな!』

鈴木の声にも力強さが宿り、電話越しに互いの気合いが伝わり合った。

期待される快感と、それを超えてやろうという純粋な情熱。

おじさんたちの「大人の本気」が最高潮に達する中、運命の金曜日の夜が、静かに幕を開けようとしていた。

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