ナイターの光と、駆け引きの白球
火曜日の仕事終わり。
山口製作所のメンバーは作業着からユニフォームやジャージに着替え、車に分乗して隣町のグラウンドへと向かった。
到着して驚いた。照明灯がパッと眩しく照らすグラウンドは、黒土とフェンスがきれいに整備されており、立派なナイター設備が整っていた。足を踏み入れるだけで、なんだかプロ野球選手にでもなったかのように気分が高揚してくる。
「うわぁ、本格的なグラウンドですね……!」
「テンション上がるな! よし、まずはキャッチボールから始めよう!」
軽く身体をほぐし、ポジションごとのシートノックとバッティング練習に移ったところで、遠くから「おーい! 遅れてすまん!」と声が聞こえた。
やってきたのは、喫茶店の営業を終えたばかりの鈴木だった。
エプロンを外して駆けつけてくれた鈴木の顔には少し疲れが見えていたが、グラウンドに立つと目つきが一変した。
「鈴木さん、店終わりで大丈夫ですか?」
「大丈夫大丈夫! 体は重いけど、ここに来たら目が冴えてきたよ!」
いざセカンドの守備に就くと、軽快なステップでノックの打球を裁き、鋭い送球を見せる。
「鈴木さん、めちゃくちゃ動きキレキレじゃないですか!」
佐藤たちが驚くと、鈴木は「伊達に伊豆で喫茶店やってないよ!」と得意げに笑った。
山口製作所チームも負けてはいない。ブランクや年齢の壁はあるものの、昔取った柄の杵柄でそれなりに動けていた。ただ、やはり体力の衰えは隠せず、少し動くだけで息が上がり始める。
「はぁ、はぁ……気持ちはボールに追いついてるのに、足が動かん!」
「あした絶対ヤバいことになりますねこれ……ハハハ!」
それでも全員、汗を流しながら最高に楽しそうな笑顔を浮かべていた。
そして、ついに佐藤のバッティング練習の番が巡ってきた。ヘルメットをかぶり、バットを握りしめてホームベースへと向かう。
マウンドに立っている相手(商店街チームの投手)は、がっしりとした体格の男だ。投球フォームから繰り出された白球は、シューッと音を立ててミットに収まった。
(……は、速い! 120キロは出てるぞ!?)
バッティングセンターの機械的なボールとはまるで違う圧迫感。佐藤はふっと息を吐き、しっかりとバットを構えてタイミングを測った。
ピッチャーが腕を振る。ストレートだと思ってバットを振り抜いた瞬間——ボールが手元でキュッと沈んだ。
「空振り!」
「うわっ、変化球か!」
見事なフォーク(あるいはスライダー)に空を切らされ、佐藤は苦笑いした。しかし、同時にゾクゾクッとした興奮が込み上げてきた。
ただ飛ばせばいいバッティングセンターと違い、相手投手との心理戦や「駆け引き」がある。これが本物の野球の面白さなんだと肌で感じた。
「佐藤くん、次ストレート来るぞ! 狙っていけ!」
ベンチからの声援を受け、佐藤は再び構えた。
(次はストレート一本に絞る……!)
ピッチャーが投げた。狙い通りの真ん中高めのストレート!
「キィン!」と金属バット特有の快音が夜空に響き渡った。打球は高く上がり、ピッチャーの頭上へ。
「ピッチャーフライ!」
アウトにはなったものの、手のひらに残るシビれるような感触と、120キロのボールを捉えた爽快感に、佐藤は「おぉ〜っ! 当たった!」と思わず声を上げて喜んだ。
その後も、声を掛け合いながら白熱した練習が続き、あっという間に利用時間の終了時刻である20時を迎えた。
全員でトンボを持って丁寧にグラウンド整備を行い、挨拶をして解散となった。
夜の冷たい風に吹かれながら仲間たちの顔を見渡すと、全員が少年のようにイキイキとした表情を浮かべていた。と同時に、「明日、絶対に激しい筋肉痛が来るな……」という苦笑い交じりの懸念もあちこちから漏れ聞こえてくる。
仕事と家を往復するだけだった都会の生活では、絶対に味わえなかった時間。
大人たちが夜のグラウンドで汗を流し、一喜一憂する。佐藤は身体の心地よい重みを感じながら、「こういうの、本当に久しぶりだな」と深い満足感に浸っていた。




