夜明けのコーヒーと、達成感の乾杯
時計の針が朝の7時を回った。
「やばい! あと1時間で開店だぞ!」
作業は順調だったはずなのに、ディテールにこだわり過ぎたせいで、最後の片付けと細部のチェックはまさに開店ギリギリの戦いとなっていた。
鈴木は途中からエプロンを締め、厨房でサイフォンに火をつけたり、トーストの仕込みをしたりと開店準備を開始していた。作業の手を止めずにバタバタと動き回るおじさんたちを横目でチラリと見ながら、鈴木は「まあ、このメンバーなら大丈夫だろう」と口元を緩ませていた。
そして7時45分。
脚立や工具、剥がした廃材を裏手に運び出し、モップ掛けを終えた瞬間、すべての作業が完了した。
「……できた」
朝の光が窓から差し込み、新しく生まれ変わった店内を照らし出す。
そこにあったのは、深みのある濃い茶色と立体感のあるエンボス加工が光る、落ち着いた80年代アメリカンヴィンテージ風の壁。コンセント周りも端の処理も、プロ顔負けの完璧な仕上がりだった。
自分たちの手で剥がし、汗をかいて貼り上げた壁紙をじっと見つめながら、佐藤の胸の奥からじわじわと温かいものが込み上げてきた。
「やればできる」という誇らしさというよりも、ただただ「めちゃくちゃ楽しかった」という純粋な達成感。大人になってから、こんなに無我夢中で一つのことに没頭した夜があっただろうか。
「はい、徹夜作業お疲れさん!」
そこへ、鈴木が湯気の立つブレンドコーヒーを人数分トレイに乗せて運んできた。
「おおっ、マスター! 気が利くねぇ!」
渡辺さんが嬉しそうにカップを受け取る。全員で円になり、コーヒーカップをカチャンと静かに重ね合わせて乾杯した。
朝一番の挽きたてコーヒーが、徹夜明けの身体にじんわりと染み渡っていく。
「ふぅ……最高の仕上がりだな」
「本当に。これで今日から新しい雰囲気で営業できますね、鈴木さん」
「ああ、みんなのおかげだよ。本当にありがとうな」
時計が8時を告げ、外の通りが少しずつ騒がしくなり始めていた。
「よしっ! それじゃあ俺は、畑の朝の水やりに行ってくるわ! 放置しすぎると野菜に怒られるからな!」
渡辺さんが豪快に笑いながら立ち上がった。
「鈴木さんはこれから開店営業、頑張ってね!」
「お前たちも、家に帰ったら倒れるように寝ろよ」
「はーい、お疲れ様でしたー!」
店主の鈴木を残し、佐藤たちは爽やかな朝の空気の中へと足を踏み出した。
徹夜の疲労感すら心地よく感じられる朝。佐藤は青空を見上げながら、次の「机と椅子」の改造計画に思いを馳せていた。




