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僕が逃げた利器と得た安住  作者: 藤一


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職人の技と、役割分担のパズル

土曜日の朝、佐藤たちは車を走らせ、隣町の大型ホームセンターへと向かった。

特設会場に到着すると、そこには本物のクロス(壁紙)職人である講師の先生と、練習用の壁パネルがズラリと並んでいた。

「壁紙貼りはね、ダイナミックに見えて実はものすごく繊細な作業なんです」

職人さんの説明を受けながら、実際にのり付きの壁紙を手にした佐藤たちは、その言葉の意味をすぐに思い知ることになった。

「うわっ、のりが重い! パタパタ折ると破れそうになる……!」

大きな壁紙をドーンと壁に位置合わせして貼り付ける作業は、まさに大胆さが必要だ。しかし、そこからの作業は一転して超・繊細。

空気が入らないように専用のなでバケで中央から外へ空気を逃がし、角の隙間にコテ(地ベラ)をキュッと押し当てて、カッターで1ミリの狂いもなく余分な部分を切り落とす。

「うーん、端っこをカッターで切る時に、紙が破れちゃいました……」

失敗しながら何度も練習を重ねるうちに、参加して本当によかったと全員が心から実感していた。独学のぶっつけ本番で店の壁に挑んでいたら、間違いなくヨレヨレの目も当てられない惨状になっていただろう。

そして、練習を繰り返す中で、メンバーそれぞれの「得意分野」が面白いくらいに分かれてきた。

「渡辺さん、大胆にドーンと真ん中の広い面を伸ばして貼るの、めちゃくちゃ上手いですね!」

「ガハハ! 力仕事と大まかな位置合わせは俺に任せろ!」

渡辺さんは、大きな壁紙を歪みなく壁の中央へダイナミックに配置するのがズバ抜けて上手かった。

一方で、細部で輝いたのが呉服屋の小林さんと、店主の鈴木だ。

「小林さん、コンセントカバーの周りとか、柱の端っこの落ち込み部分、めちゃくちゃ綺麗にハマってますよ……!」

「ふふふ、普段から生地の端処理をやってるからね。こういう『キワ』の攻防は得意なんだよ」

コンセントや部屋の隅など、複雑な形に合わせて壁紙をきっちり切り込み、隙間なくはめ込む繊細な作業は小林さんの独壇場だった。

そして、佐藤は正確な寸法計算とカットを担当した。事前に測定した寸法通りに、柄のズレ(リピート)を計算しながら正確にカッターで裁断していく。

「佐藤くんの切ってくれた壁紙、柄合わせが完璧だから貼りやすいよ!」

「はい! この役割分担なら、絶対に上手くいきますね!」

いつの間にか、誰が指示を出すわけでもなく、互いの長所を活かした「壁紙施工チーム」の役割分担が自然と出来上がっていた。

ワークショップの最後、職人さんに「プロ並みのおすすめの道具と材料」を相談した。

「初心者なら、のりは乾くのが少し遅めで微調整が効くタイプがいいですよ。あと、コテはこの薄くて硬いステンレス製の地ベラ、竹ベラは角を出すのに必須です。壁紙はやっぱり表面が強くて伸びにくい国産のエンボスタイプですね」

職人さん直伝のノウハウをメモしまくり、その場で教わった通りの「おすすめ壁紙、接着剤、竹ベラ、地ベラ、ローラクリーナー」を大量に買い込んだ。

車のリヤシートにギッシリと積み込まれたプロ仕様の道具たち。

「よし……これで『知識』と『道具』と『役割』は全部揃ったぞ!」

「来週は、いよいよ喫茶店の壁紙本番だな!」

車内で顔を見合わせるおじさんたちの目は、もはやDIY好きの素人ではなく、一仕事終えたばかりの職人そのものの顔つきになっていた。

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