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僕が逃げた利器と得た安住  作者: 藤一


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運命のワークショップと、大人の本気

「よし、じゃあ具体的に壁紙が何メートル必要か、採寸と見積もりを出すぞ!」

渡辺さんがスケール(メジャー)を伸ばし、佐藤と高橋さんが壁の高さと横幅を細かくノートに書き留めていく。窓やドアの開口部を差し引き、失敗した時の予備も含めて必要な壁紙の長さを計算した。

「専用ののり、空気抜きのヘラ、カッターガイド……材料と道具を全部合わせても、まあ数万円ってところだな」

高橋さんが電卓を叩いて弾き出した金額を見て、鈴木が「俺が店主だし全額出すよ」と言いかけたが、渡辺さんが即座に手を横に振った。

「バカ言え鈴木さん! これは俺たちの『遊び』でもあるんだから、均等に割り勘に決まってるだろ!」

「そうですよ!」小林さんも笑う。「この歳になるとさ、パチンコも酒も大してやらないし、田舎だからお金を使う娯楽なんてそうそう無いんだ。こんなにワクワクする面白いことに数千円出せるなら、安すぎるくらいだよ!」

みんな当然のように財布を出す気満々で、金額の心配など誰一人としてしていなかった。それ以上に、「自分たちの手で店の雰囲気をガラリと変える」という新しい体験へのワクワク感が勝っていた。

しかし、一通り採寸が終わったところで、佐藤がふと冷静になって口を開いた。

「……あの、みなさん。壁紙のカットやのり付けはいいとして、これだけの面積を自分たちだけで綺麗に貼れるでしょうか? 正直、誰もクロス(壁紙)なんて貼ったことないですよね……?」

その一言に、全員がハッと息をのんだ。

「……そういえば、YouTubeの動画でしか見たことないな」

「柄合わせ(レンガの模様を綺麗につなげること)を失敗したら、せっかくの立体エンボス加工が台無しになっちゃうぞ……」

ノリと勢いで突き進んでいたおじさんたちに、一瞬だけ「失敗への不安」がよぎる。

「……ちょっと待ってろ、ネットでプロのコツとか、初心者向けの練習講座みたいなのがないか調べてみる」

佐藤がスマートフォンを取り出し、「壁紙 貼り方 ワークショップ 近辺」で検索をかけてみた。

すると、画面を見た佐藤の目が大きく見開かれた。

「……嘘でしょ!?」

「どうした佐藤くん!?」

「隣町のホームセンターで……まさに来週の土曜日、『プロの職人が教える! 初心者のためのDIY壁紙貼りワークショップ』が開催されるみたいです!」

「「「な、なんだってー!?」」」

店内が一気にどよめいた。

タイミングがあまりにも良すぎる。車で20分ほどの隣町で、しかも自分たちがまさに困っていた「壁紙貼り」の実践講座が来週行われるなんて、奇跡としか言いようがなかった。

「これはもう……神様が『とことんこだわって、本気でやれ!』って言ってるようなもんだろ!」

渡辺さんが大興奮でテーブルを叩いた。

「決まりだ! 来週の土曜は全員でそのワークショップに殴り込みだ! プロの技を全部盗んで、完璧なアメリカンヴィンテージの喫茶店を作ってやるぞ!」

「おうっ!!」

不安は一瞬で吹き飛び、おじさんたちの熱量は最高潮に達した。

ただの素人施工で終わらせない。プロの技を学んで本気で挑む——。

最高の運命に背中を押され、佐藤たちの「喫茶店リノベーション作戦」は、さらに熱を帯びて動き出すのだった。

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