おっさんの夏休みの区切りと、次なるたくらみ
孫に怒られた翌週末、山口製作所の仕事が休みの土曜日。
佐藤たちは朝から渡辺さんの畑の隅に集まり、秘密基地兼農機具小屋の「最終仕上げ」を行っていた。
トラクターの上を跨ぐ高床棚をしっかり打ち付け、草刈機を斜めに固定する専用のハンガーフックを壁にガチッと取り付けた。最後の一本のコーススレッド(ネジ)をインパクトドライバーで「ギュイーン、ガガガッ!」と締め込むと、心地よい静寂が畑に訪れた。
「……よし! これで完璧に完成だ!」
鈴木の声を合図に、全員が数歩下がって小屋を見上げた。
基礎の杭打ちから始まり、2×4材のフレーム組み、ベニヤと防水シート張り、雨音の響く波板屋根、屋根の上の小型ソーラーパネル、そして内装の立体収納まで。
限られた10平方メートルの敷地の中で、素人のおじさんたちが知恵と体力を絞り出し、やれるだけのことをすべて詰め込んだ。
「長かったなぁ……。最初はただの物置のつもりだったのに、こんな立派なものが建っちゃうんだもんな」
佐藤は自分の打った釘や、ちょっと曲がった金具を見つめながら、じんと胸が熱くなるような深い感慨に浸っていた。
「さあ! それじゃあ渡辺さん、本題の農機具をしまおうぜ!」
「おうよ! 待ってました!」
渡辺さんが嬉しそうに手押しトラクターを押し、肩に草刈機を担ぎ、さらに物置の奥からスコップや鍬、ジョウロ、収穫用のコンテナボックスを続々と運んできた。
フックに草刈機を掛け、高床棚の下にトラクターを収め、壁のボードに鍬やノコギリを整然と吊り下げていく。
すべての農具が定位置に収まったところで、全員で中を覗き込んだ。
「……えっ」
佐藤は思わず目を見開いた。
「……こんなに入れるの? 狭っ……!!」
あんなに苦労して空中収納や棚を作ったというのに、農具がぎっしりと詰まった小屋の内部は、大人が一人がギリギリ足を踏み入れられるかどうかの超高密度空間になっていた。
「ハハハ! 縁側とかリクライニングとか言ってたのが嘘みたいに、ギチギチのガチな農機具小屋になったな!」鈴木が大笑いした。
「まあ、最初にちゃんとした図面も引かずにノリで作ったんだから、こんなもんだろ!」渡辺さんもお腹を抱えて笑っている。
緻密な計画も計算もない、行き当たりばったりのDIY。けれど、この狭くて泥臭い空間には、自分たちの夏の思い出がぎゅっと凝縮されていた。
「みんな、本当にありがとうな! おかげで最高の小屋ができたよ!」
渡辺さんが軽トラの荷台から、冷やしたクーラーボックスとバケツを出してきた。中には、渡辺さんの畑で採れたてのツヤツヤしたトマトやキュウリ、ナス、そして氷水でキンキンに冷えた缶ビールがどっさりと詰まっていた。
「完成祝いだ! 遠慮なく食って飲んでくれ!」
畑の脇にパイプ椅子を並べ、完成した小屋を眺めながら乾杯した。
もぎたてのトマトを丸かじりすると、太陽の香りと甘いジュースが口いっぱいに広がった。冷えたビールを喉に流し込むと、この夏に叩いた釘の感触や、作業の合間に飲んだコーヒーの味が一度に蘇ってくる。
空を見上げると、雲の形は少しずつ高くなり、風にはどこか秋の匂いが混じり始めていた。
大人になってからこんなに汗をかき、夢中になって遊んだ夏はなかった。佐藤は、自分の中でひとつの「特別な夏休み」が区切りを迎えたことを感じていた。
「さあて!」缶ビールを飲み干した小林さんが、ニヤリと笑って立ち上がった。
「秘密基地が一段落したってことは……次は鈴木さんの喫茶店の改造だな!」
「おうよ! 今度は壁紙の貼り替えと無垢材のテーブル作りだ!」
「待て待て、俺の店を実験場にするんじゃないよ!」
鈴木が苦笑いしながらも、どこか嬉しそうに反論する。
ひとつの夏が終わり、また新しい「大人の本気の遊び」が始まろうとしている。佐藤は冷えた缶ビールをもう一口飲み、心からの笑顔を浮かべていた。




