オーバースペックの代償と、喫茶店リノベーション計画
翌週の週末。いつもの純喫茶のドアが「カランコロン!」と激しい音を立てて開いた。
「やりすぎたーーーっ!!」
飛び込んできた呉服屋の小林さんが、頭を抱えてテーブルに突伏した。
佐藤と鈴木が驚いて顔を見合わせる。
「小林さん、どうしたんですか急に! あのナップサック、何か問題でもありました?」
「問題大ありだよ!」小林さんが泣きそうな顔で顔を上げた。「あのオーバースペックなナップサックを孫が学校に提出したらさ、図工の先生どころか校長先生まで出てきて大騒ぎになって……『小学校の部の作品として、県の展覧会に出品したい』って連絡が来ちゃったんだよ!」
「「県の展覧会!?」」
佐藤と鈴木の声が重なった。
「孫からは『おじいちゃんたちが勝手に改造するから、クラスのみんなにずるいって言われた! 私が作ったところ、紐通したところだけじゃん! 何してくれてんの!』って本気で怒られちゃってさぁ……」
「ハハハハハ!」鈴木がカウンターを叩いて大爆笑した。「いいじゃないか! これぞ大人の技術力と浪漫の勝利だよ! 『これが職人の本気だ』って胸を張って言えばいいさ!」
「いやいや……全然慰めになってないからね!?」佐藤がつっこみを入れつつも、思わず苦笑いした。
しかし、小林さんは頭を抱えつつも、どこか満足気な職人の目をしていた。
「……でもさ。自分の手で生地を選んで、機能を考えて、形にしていくあの感覚……久々にゾクゾクしたんだよね。あのナップサックで止まっちゃうのは、なんか勿体ない気がしないか?」
小林さんが立ち上がり、じっと喫茶店の店内を見回し始めた。
使い込まれた木製のテーブル、背もたれのある椅子、壁際に置かれた古びた本棚、そして少し色あせた壁紙。
「……なぁ鈴木さん。この際だからさ、もっと突き詰めて色んなもの作ってみないか? 例えば……この店の目につくもの、全部自分たちの手で作るとかさ!」
「はぁ!?」鈴木が目を見開いた。
「いいねぇそれ!」そこへ、ちょうど店に入ってきた渡辺さんと高橋さんまで乗っかってきた。
「このテーブルもさ、2×4材で頑丈な無垢材テーブルに作り直そうぜ!」
「壁紙も剥がして、今流行りの珪藻土か漆喰をみんなで塗れば、もっと温かみのある空間になりますよ!」
「カウンターの棚も、俺がアイアンフレームと木材で男前なラックを作ってやる!」
「待て待て待て!!」
鈴木が慌てておじさんたちの間に割り込んだ。
「お前ら正気か!? ここは俺の『営業中の店』だぞ! テーブルも壁も全部一気に手をつけるなんて、営業できなくなっちゃうだろ!」
「大丈夫だって! 週末の夜とか、休業日にちょっとずつ進めればいいんだからさ!」
おじさんたちの「作りたい欲」はもう誰にも止められない状態になっていた。
佐藤も「確かに、自分たちでリノベーションした喫茶店で飲むコーヒーは格別かもしれない……」と、内心ワクワクし始めていた。
全員からの熱い視線を浴び、鈴木は「うぐぐ……」と頭を抱えた。
「……はぁ。分かったよ、折れたよ! ただし! 営業に支障が出ないように、毎週一箇所ずつ! 少しずつ進めること! これが条件だぞ!」
「「「よっしゃーーっ!!」」」
おじさんたちの歓声が店内に響き渡った。
孫に怒られた反省もどこへやら、大人の「全力のごっこ遊び」は、ついに秘密基地を飛び出して、街の小さな純喫茶へと飛び火していくのだった。




