いびつなチョコバナナと夏の花火
お祭り本番の土曜日。神社の境内には朝から提灯が飾られ、出店のパイプテントがずらりと立ち並んでいた。
山口製作所のテントの下で、佐藤はエプロンを締め、初めてのチョコバナナ作りに苦戦していた。
「あー……またバナナが折れそうになった……」
湯煎でトロトロに溶かしたチョコレートに、皮をむいて棒を刺したバナナをくぐらせる。簡単そうだと思っていたが、やってみると想像以上に難しかった。
バナナは1本ずつ太さも曲がり具合も違うし、熟し具合によっては柔らかすぎて棒からすっぽ抜けそうになる。チョコを均一に絡ませ、固まる前に急いでカラフルなスプレーチョコをふりかけ、仕上げに可愛いマシュマロをちょこんと乗せる。
佐藤と社長、田中さんの3人で試行錯誤しながら、なんとか30本のチョコバナナを作り上げ、氷を入れた発泡スチロールの展示台に並べた。
「……なんか、全部形がバラバラですね」
佐藤が苦笑いしながら並んだチョコバナナを見つめた。
プロが作ったように完璧な均一感はない。チョコが少し分厚くついたもの、曲がり具合が強くてちょっと不恰好なもの、マシュマロが斜めに刺さったもの。
けれど、しばらく眺めていると、どこか愛おしいような、手作りならではの「味」を感じてしんみりとした。
「いいじゃないか佐藤くん!」社長が展示台を覗き込んで笑う。「子どもたちは『これが一番大きそう』とか『マシュマロが曲がってて面白い』とか、自分の好きなやつを選ぶだろ? バラエティに富んでた方が選ぶ楽しみがあるさ!」
「そうですね……あ、でも、僕が作った極太のやつだけ最後まで残ったら悲しいですけどね」
佐藤の呟きに、田中さんが「ハハハ、大丈夫だ!」と背中を叩いた。
夕方になり、神社に太鼓の音が響き渡ると、いよいよ祭りが始まった。
自治会が呼んだおしゃれなキッチンカーには大人の行列ができていたが、山口製作所の「チョコバナナ&サイコロゲーム」の屋台には、100円玉を握りしめた子どもたちが次々と押し寄せてきた。
「いらっしゃい! チョコバナナ1本200円! サイコロ振ってぞろ目が出たら、もう1本おまけだよー!」
社長の威勢のいい声に誘われ、子どもたちが大はしゃぎでサイコロを転がす。
「あーっ! 3と3が出た! ぞろ目だー!」
「おめでとう! 好きなチョコバナナ2本持っていっていいぞ!」
子どもだけでなく、懐かしそうに買いに来る大人や近所のおばちゃんたちもいて、展示台のチョコバナナはみるみるうちに減っていった。心配していた佐藤の「いびつなチョコバナナ」も、「これマシュマロがでかくて可愛い!」と小さな女の子が嬉しそうに買っていってくれた。
「佐藤くん! チョコバナナの補充頼む! トッピングのマシュマロも追加だ!」
「はいっ!」
バナナに棒を刺し、チョコを溶かし、氷水で冷やす。
休む暇もない怒涛の忙しさだったが、不思議と疲れは全くなかった。立ちっぱなしで腕もパンパンのはずなのに、「楽しい」という気持ちが完全に勝っていた。
途中で、近所の渡辺さんや鈴木さんたちも遊びに来てくれた。
「おう佐藤くん! 頑張ってるな! これ、喉乾いただろ」
渡辺さんがキンキンに冷えた缶ビールを差し入れてくれた。
社長と一緒にプシュッと缶を開け、喉に流し込む。火照った身体に冷たいビールが染み渡り、最高の気分だった。
——やがて夜が更け、祭りの終盤。
境内の照明が少し落とされ、ヒュ〜〜〜……と音を立てて、夜空に大きな大輪の花火が打ち上がった。
ドン、と胸に響く重低音とともに、夜空が赤や緑の光で染まる。
「……綺麗ですね」
佐藤はビール缶を片手に、見上げた。
東京にいた頃、ビル群の隙間から画面越しのように見ていた花火とは違う。自分の手でチョコバナナを作り、街の人たちと笑い合い、汗をかいた後に見上げる花火は、息が止まるほど美しかった。
花火が終わると、祭りの熱気は静かに引いていった。
「よし! 片付けは明日の朝みんなでやろう! 今夜はもう飲み始めるぞー!」
社長の号令で、残ったチョコバナナと差し入れの酒を囲み、大人たちの打ち上げが始まった。
手作りのいびつなチョコバナナと、子どもたちの弾けるような笑顔。
佐藤は、この町で暮らすことの温かさと豊かさを、またひとつ深く胸に刻んでいた。




