祭りの予感と、チョコバナナの作戦会議
週が明け、いつものように山口製作所の事務室で書類の整理をしていると、工場の方から作業着姿のベテラン職人・田中さんが顔を出した。
「社長、ちょっといいですか? 今週末の神社の祭り、うちの屋台の準備はどうしましょうか?」
「おお、もうそんな時期か!」
社長が思い出したように手を打った。
山口製作所は毎年、会社から歩いてすぐの地元の神社で開催される夏祭りに、地域貢献も兼ねて屋台を出店しているのだという。
「佐藤くんも一緒に倉庫に行こう。屋台の道具一式が眠ってるからさ」
会社の裏手にある古い木造倉庫へ向かうと、そこはまさに「祭りの舞台裏」だった。
パイプテントの骨組みから、業務用プロパンガスコンロ、極厚の鉄板、さらには小型のガソリン発電機まで、所狭しと並んでいる。
「うわぁ……本格的ですね! これだけ揃ってたら、大抵のものは作れそうですね」
佐藤が感心して見回すと、社長が腕を組んでうーんと唸った。
「そうなんだよ。道具は揃ってるから何でもできるんだ。去年は鉄板を使って本格的な『ソース焼きそば』を出して、まあそれなりに売れて盛り上がったんだけどな……」
田中さんが苦笑いを浮かべながら補足した。
「今年は自治会が頑張ったらしくてさ、近隣の町からおしゃれなキッチンカーが2台も来るらしいんだよ。スパイスカレーとかハワイアンポキ丼とか売るらしくてな」
「ポキ丼……」佐藤は思わずつぶやいた。「田舎の神社の祭りにポキ丼ですか。なかなか攻めてますね」
「だろ? だから今年は、うちももう少し華のあるメニューにしようかと思ってさ。フレンチトーストとか、ハーブソーセージとかどうだ?」
社長がノリノリで提案するが、田中さんは少し首をひねった。
「社長、それだとキッチンカーと張り合うことになっちゃいませんか? うちがやりたいのって、大人向けのおしゃれフードじゃなくて、近所の子どもたちが小遣い握りしめて買いに来れるやつでしょう」
「あ……そりゃそうだ。主役は子どもたちだもんな」
二人が「うーむ」と頭を抱え始めた。
(華があって、子どもが喜んで、簡単に作れて安いやつ……)
佐藤の頭の中で、先週の純喫茶で教わった「シンプルな手作りの良さ」や、ホームセンターで学んだ「背伸びしすぎない楽しさ」が繋がった。
「あの……社長、田中さん。**『チョコバナナ』**なんてどうですか?」
「「チョコバナナ!?」」
「バナナに棒を刺して、溶かしたチョコレートにくぐらせて、カラフルなスプレーチョコを振るだけです。見た目もパッと華やかですし、1本200円くらいに抑えれば子どもたちもお小遣いで買えますよ」
田中さんの目が輝いた。
「いいな! 鉄板も火も使わないから火傷の心配もないし、冷やす氷水があればすぐできる!」
「よし、決まりだ!」社長がパッと顔をほころばせた。「でも、ただ売るだけじゃ面白くないな……よし、『チョコバナナを買ってくれた子限定のゲーム』をやろう!」
「ゲームですか?」
「おう! サイコロを二つ振って、ぞろ目が出たら『もう1本おまけ』とか、割り箸のくじ引きでアタリが出たら『チョコバナナに特大トッピング』とかさ! 利益なんて出なくていいんだ、子どもたちが『山口製作所の屋台、超楽しかった!』って笑ってくれれば大成功だろ!」
「最高ですね、それ!」佐藤も思わず声を弾ませた。ここにあるのは「子どもたちをどう楽しませるか」という、大人たちのピュアで優しい工夫だ。
「そうと決まれば、週末に向けてバナナとチョコレートの仕入れだな! 佐藤くん、調達係頼むぞ!」
「はい、お任せください!」
倉庫の埃っぽい匂いの中で、佐藤は今週末の「お祭り」という新しいワクワクに向けて、メモ帳とペンを固く握りしめた。




