立体収納のアイデアと、忘れ去られた主役たち
屋根も完成し、ソーラーパネルからの電力も確保された。
次に始まったのは、小屋の内部をどう使うかという「内装プロジェクト」だった。
「なぁ渡辺さん。最初は地面に直置きでいいやって思ってたけど、せっかくここまで作ったんだ。中もちゃんと整理整頓できるようにしようぜ」
鈴木が腕を組んで小屋の中を見回した。
「壁には有効ボード(穴あきの板)を張ってさ、フックを取り付ければ、鍬やスコップ、ノコギリなんかを『見せる収納』としてズラリと飾れるぞ! ガレージっぽくてカッコいいだろ?」
「おおっ! それいいな!」渡辺さんが目を輝かせる。
「じゃあ天井の梁にフックを打ち込んで、長ものやホースは天井から吊るすか!」
高橋さんも手帳を開いてアイデアを書き足していく。
「小物はホームセンターで売ってるコンテナボックスにラベルを貼って仕分けしましょう。コンテナを積み重ねられるように、2×4材で頑丈な『壁面棚』を組みましょうか」
「いいねぇ! 平面に物を置くんじゃなくて、壁と天井を使って『立体的に収納』するんだ! これならスペースも広く使えるし、秘密基地感もさらに増すぞ!」
おじさんたちの「収納カスタマイズ熱」が留まるところを知らない。
佐藤もインパクトドライバーを手に、「じゃあ僕、コンテナ用の棚の採寸をやりますね!」と、メジャーを持って張り切って小屋の中に入った。
ガレージ風の見せる収納、天井から吊り下げられたツール、ソーラーで点くLEDライト。どこをどう見ても、男の浪漫が詰まった最高の空間になりつつあった。
——その時だった。
トコトコトコ……と、畑の方からエンジン音が近づいてきた。
渡辺さんが、いつも使っている「手押しトラクター(耕運機)」を押し、さらに肩にはあの長くて邪魔になる「エンジン式の草刈機(刈払機)」を斜め掛けにして戻ってきたのだ。
「よーし、じゃあ一回、いつも使ってる農具を入れてみるか!」
渡辺さんが手押しトラクターをトコトコと小屋の中へ押し入れ、その横に草刈機をドサッと置いた。
——ガチャン。
「……ん?」
全員がフリーズした。
トラクターのゴツいエンジン部分とハンドル、左右に張り出した車輪。それが小屋の中央にドーンと鎮座し、その脇には丸い刃と長いハンドルがついた草刈機が横たわっている。
斜めに置かれた草刈機のロングポールが、あろうことか佐藤が採寸していた「壁面棚の予定地」を豪快に横切っていた。
「……あれ?」鈴木が目を丸くする。
「……渡辺さん。これ、トラクターと草刈機を入れたら……」高橋さんがメガネを押し上げた。
「……棚どころか、人間が入る足の踏み場すら無くね……?」小林さんがぽつりと言った。
静寂が流れた。
そして佐藤が、メジャーを握りしめたまま、たまらず吹き出した。
「ふ……くくっ……! 僕たち、農具小屋作ってたんですよね!? 一番デカいトラクターと、一番長くて邪魔な草刈機のこと、誰も計算に入れてなかったんですか!?」
佐藤の言葉を皮切りに、全員が大爆笑に包まれた。
「ハハハハ! いやぁすっかり忘れてた! 秘密基地作りに夢中で、メインの農機具を忘れるとかバカすぎるだろ!」
渡辺さんまでお腹を抱えて笑っている。
「草刈機のこの長いポール、床に置いたら一番邪魔なやつじゃないか! 縁側だのソーラーだの言っといて、足の踏み場もないじゃないか!」
鈴木が自分の額を叩いて笑い転げた。
AIなら、最初に「すべての所有農機具の寸法データ」を入力させ、数ミリの無駄もなく最適なレイアウトを一瞬で弾き出していただろう。こんな初歩的な失敗など絶対に起こらない。
けれど、自分たちの「浪漫」に夢中になるあまり、肝心な現実をすっぽ抜かして、最後はみんなで「やってしまった!」と腹を抱えて笑い合う。
この無駄で、愛おしくて、最高に人間くさい失敗。
「よし! なら草刈機は専用の『壁掛けハンガー』を斜めに作って、空中で固定するぞ! トラクターの上にも跨ぐように高床棚を作る!」
「おう! 攻略甲斐があるパズルになってきたな!」
笑い声が夏空に響く中、おじさんたちの秘密基地づくりは、トラクターと草刈機を交えた新たな「立体収納攻略戦」へと突入していくのだった。




