こだわりと、AIが弾き出した縁側
待ちに待った週末。
渡辺さんの畑の端っこでは、朝からインパクトドライバーの「ウィーン」という音と、おじさんたちの賑やかな声が響いていた。
作業は順調……かと思いきや、現場は完全に「こだわり沼」にハマり込んで進んでいなかった。
「なぁ鈴木、ただのウッドデッキじゃ面白くないだろ。せっかくなら、渡辺が農作業から帰ってきた時に、足を伸ばしてゆったりリクライニングできる角度の背もたれ付きベンチを一体化させようぜ!」
「いいねぇ高橋さん! でもそれなら、座面の下をパカッと開けて、中にポータブル電源や工具をしまえる『収納付きベンチ』にしたほうがスペースを無効活用できるぞ!」
「なら、雨が降っても濡れないように、庇の長さをあと30センチ伸ばして、折りたたみ式のサンシェードをつけましょうか」(小林)
みんなの「もっとこうしたい」という欲望が止まらない。
だが、10平方メートルという限られたスペースと、素人のDIY技術では、どうパーツを組めば強度を保てるのかアイデアが立ち切ってしまった。
「うーむ……強度を保ちながら収納付きリクライニング縁側を作るには、どんな骨組みにすればいいんだ……」
鈴木が頭を抱えて唸っていると、ポケットからスマホを取り出し、画面をタップし始めた。
「……鈴木さん、何してるんですか?」佐藤が覗き込むと、そこには見覚えのあるAIチャットの画面が開かれていた。
「ん? ああ、佐藤くんが会社でAI使ってるって言ってたからさ。俺もアプリ入れてみたんだよ。AIに『2×4材で作る、収納付きで強度の高い縁側の構造アイデア』って聞いてみてるんだ」
「えっ! 鈴木さんがAIを!?」
佐藤は驚いた。マニュアル主義の鈴木が、自らAIを頼っている!
「AIは指示に従うだけの道具だろ? 自分の頭だけで悩むより、使えるアイデアは機械から引っぱり出せばいいんだよ!」
AIは数秒で「斜めの補強材(筋交い)を入れたトラス構造の図案」を画面に提示した。
「おおっ……! この斜めに一本木を入れる補強、頭になかったな! これなら強度も出せるし、下の収納スペースも潰さずに済むぞ!」
「なるほど! AIの提案を、俺たちの手作業で形にするわけですね!」
「その通り! AIに作らせるんじゃない、AIを『設計のヒント出し』として使い倒すんだ!」
鈴木の号令で、作業が再開された。
AIが提示した補強の構造を参考に、自分たちの手で木材を採寸し、ノコギリで角度をつけて切り出し、インパクトドライバーでガチッと固定していく。
——そして、昼下がり。
「よし! 一旦手を止めて、休憩にしよう!」
まだ壁の塗装や細部のカスタムは途中で、現場は「絶賛工事中」の木くずと工具に散らかっていた。けれど、出来上がりつつある頑丈な骨組みと、AIのヒントを得て作った歪みのない縁側の形がそこにはあった。
渡辺さんが軽トラから出してきたポータブル電源に湯沸かしポットを繋ぎ、お湯を沸かす。
高橋さんが持参した手挽きのコーヒーミルで、ゴリゴリ、ゴリゴリと音を立てて豆を挽く。香ばしいコーヒーの匂いが、夏の畑の風に乗って広がる。
「ほら佐藤くん、挽き立てだぞ」
完成していない木材の香りが残る縁側に、みんなで腰掛けた。
まだ背もたれもペンキ塗りも終わっていない「作業中の秘密基地」。けれど、自分たちの汗とこだわり、そしてAIのヒントまで柔軟に取り入れて作り上げているこの場所は、どこよりも居心地が良かった。
ふーふーと息を吹きかけ、温かいコーヒーを啜る。
「……ふぅ。美味いですねぇ」小林さんが目を細める。
「AIに『一番美味いコーヒーの淹れ方』を聞いても、この木くずの匂いと、作業の途中で飲む一杯の美味さは教えてくれんからな!」
渡辺さんが豪快に笑い、みんなも「違いない!」と腹を抱えて笑った。
作業はまだまだ終わらない。
こだわりが増えれば増えるほど、完成は遠ざかる。
けれど、この「未完成のまま、みんなで手作業を重ねていく時間」こそが、佐藤にとって何より愛おしいスローライフの瞬間だった。




