バチンと響くタッカーと、増築の野望
基礎のブロックが固まり、いよいよ骨組みと壁の施工に入った。
「佐藤くん、インパクトドライバー使ってみるかい?」
鈴木から渡されたのは、バッテリー式の電動ドライバーだった。ずしりと手応えのある重さ。
「先端のビットをネジの頭に直角に当てて、軸がぶれないように体重を乗せるんだ。最初はゆっくり引く」
「はい……!」
佐藤は緊張した持ち手で2×4材の接合部にネジを当て、トリガーを引いた。
ウィーッ、カカカカカッ!
ネジが木肌を噛み込み、吸い込まれるように奥へと入っていく。
手元が少し狂いそうになったが、佐藤持ち前の真面目さでまっすぐ上から体重をかけ、ピッタリ平らに打ち込んだ。
「よし、打ち込み完了! 歪みナシ!」
「筋がいいぞ佐藤くん! 事務仕事で手元を正確に動かす癖がついてるからだな!」
鈴木が褒めてくれ、佐藤は思わずニヤリと笑った。
続いて登場した工具は「タッカー」だった。ホッチキスの巨大版のような道具で、木材に透湿防水シート(雨を防ぎつつ湿気を逃がすシート)を固定するのに使う。
シートを伸ばし、木枠に押し当ててグリップを強く握り込む。
バチンッ!!
手に伝わる強い衝撃とともに、大きな針がシートを貫き、木材へガチッと叩き込まれた。
バチンッ! バチンッ! バチンッ!
「……うわ、これめちゃくちゃ気持ちいい……!」
「だろ? この『打感』がマニュアル作業の醍醐味よ!」高橋さんが笑う。
シートを張り終え、壁板を打ちつけ、屋根に波板を載せた頃には、当初の予定だった「シンプルな農具置き場」はすでに完成していた。
しかし、おじさんたちの情熱はここで収まらなかった。
「……ねえ、渡辺さん」鈴木が畑の広い敷地をぐるりと見渡した。
「ここ、畑の端っこだけど土地はいっぱい余ってるよね?」
「おう、使ってないスペースならいくらでもあるぞ」
「……この小屋、もっと横に広げられるんじゃないか?」
鈴木の目が怪しく光った。
「ここにウッドデッキ風の縁側をつけて、庇をもっと伸ばせば、作業の合間に日陰で全員で座ってお茶が飲めるぞ!」
「おおっ! 縁側! いいねぇ!」(渡辺)
「なら、壁に断熱材を入れて窓も付けましょう! 夏でも涼しく過ごせます!」(高橋)
「私が余った着物生地で、窓のかわいいカーテンを縫ってきましょう!」(小林)
どんどん膨らむアイデア。ただの農具置き場が、完全に全員の「大人の秘密基地」へと進化しようとしていた。
「でも待ってください!」
佐藤が慌ててストップをかけた。
「畑だから電線は引けてないですよね? 明かりとかどうするんですか?」
「ふふふ……甘いな佐藤くん」渡辺さんがニヤリと笑う。
「俺のトラックにはポータブル電源があるし、軽トラ用の小型ソーラーパネルもある! 太陽光で蓄電すれば、夜でもLEDライトが点くし、ラジオも聴けるし、コーヒー用のお湯だって沸かせるぞ!」
「太陽光で自家発電……! 完全オフグリッドの秘密基地じゃないですか!」
佐藤もテンションが最高潮に達した。
しかし、都会の事務職としてコンプライアンスを叩き込まれてきた佐藤の頭に、ひとつの懸念が浮かんだ。
「……あ、でも皆さん! 建築確認申請とか、建築基準法は大丈夫ですか? 小屋をあんまり大きくしすぎると、固定資産税とか法律のめんどくさい話に引っかかるんじゃ……」
全員が一瞬、ピタッと手を止めた。
「おおう……流石は元・大手事務! 鋭いところを突いてくる!」
鈴木が感心したように唸った。
高橋さんが即座にスマホで地元の建築条例を調べ始める。
「ええと……この地域だと、床面積が10平方メートル(約6畳)以下で、なおかつ移動が容易な簡易構造、基礎に緊結しない『物置扱いの範囲』なら、建築確認申請は不要ですね。農地転用の手続きもこの範囲なら問題ありません!」
「よっしゃ! 法律の範囲内ギリギリを攻めるぞ!」
鈴木が拳を握りしめた。
「10平米以下の最強の秘密基地だ! 縁側は取り外し可能なウッドデッキにして、範囲内に収める! 法律を守りつつ、男の浪漫を極限まで詰め込むぞー!!」
「「「おーっ!!」」」
法律というルールの中で、いかに自分たちの「浪漫」を詰め込めるか。
それは、AIが決めた最適解をただなぞるのとは違う、大人の知恵と手作業が織りなす最高に贅沢な遊びだった。
夕暮れの中、ソーラーパネルの配線と縁側の設計に向けて、男たちの秘密基地づくりはさらに熱を帯びていった。




