ツーバイフォー材と、秘密基地の夢
先週末のバーベキューと花火の余韻がまだ残る、ある休日の朝。
佐藤はいつものように予約も約束もなく、ふらりと純喫茶の扉を押した。
カウベルの音とともに店に入ると、マスターの淹れるコーヒーの香りに混ざって、どこか懐かしい「カツラの木の匂い」とペンキのツンとした匂いが漂っていた。
店の奥のテーブルや床には、ホームセンターから運んできたばかりの角材や金物がどっさりと積み上げられていた。
「おう、佐藤くん! いいところに来た!」
主宰の鈴木が、額の汗を拭いながら手招きした。足元には、綺麗な長方形にカットされた木材——2×4(ツーバイフォー)材が整然と並んでいる。
「鈴木さん、これ……DIYですか?」
「そう! 2×4材ってのは規格が決まっててさ、専用の金属パーツを使えば、素人でも簡単に頑丈な骨組みが組めるスグレモノなんだよ。加工もしやすいし、木目の温かみもある。マニュアルテックにぴったりの素材なんだ!」
熱弁する鈴木の横で、文具屋の高橋さんがインパクトドライバー(電動ドライバー)の充電を確認し、呉服屋の小林さんは塗料の缶をカラカラと振っていた。
「僕も手伝います! で……一体何を作るんですか?」
佐藤がワクワクしながら尋ねると、鈴木はニヤリと笑って、手書きの図面を広げた。
「渡辺さんの畑の端っこに置く『本格的な農具小屋』だ!」
「えっ! 渡辺さんの?」
ちょうどその時、店の裏手から大きな防腐塗料の缶を抱えた渡辺さんが「よっこいしょ」と入ってきた。少し照れくさそうに首を掻いている。
「いやぁ、俺の今の農具置き場、ビニールシート被せてるだけだからさ。雨が降ると鍬やスコップの柄が腐っちゃうんだよ。それを鈴木に相談したら『よし、みんなで作ろう!』って大騒ぎになり始めてな……」
「ただの物置きじゃないぞ!」鈴木が図面を指さす。
「単に地面に木を組んだだけじゃ、地面からの湿気と大雨の泥水で一発で木が腐る。だから基礎はブロックを置いて『高床式』にして底上げする! 屋根も波板を傾斜させて、雨水をしっかり逃がす設計だ。塗料も水に強い防腐オイルステインを二重塗りする!」
「おお……本格的ですね……!」
高床にして湿気を防ぎ、傾斜屋根で雨を流す。
手軽な2×4材を使いつつも、構造は本物の建築さながらの本格仕様だ。不器用な佐藤でも「これなら自分も構造を理解しながら組み立てに参加できる」と胸が踊った。
「よし! 今日の役割分担だ!」
鈴木が指示を飛ばす。
鈴木&高橋: 木材のカットと、インパクトドライバーでの骨組み結合
渡辺&小林: 木材への防腐塗料の二重塗り(ハケ仕事)
佐藤: 金具の取り付けと、正確な垂直・水平を測る「水平器」のチェック
「佐藤くん、お前には全体の『歪み』をチェックする重要な役を頼むぞ。帳簿と同じで、1ミリのズレが最後にでっかい歪みになるからな!」
「はい! まっすぐ組み立てます!」
佐藤は渡された水平器(水泡の位置で傾きを測る道具)を握りしめた。
「よし!『渡辺アグリ小屋プロジェクト』スタートだ!!」
喫茶店の裏庭で、木を引くノコギリの音、ウィーンと唸るインパクトドライバーの音、そしてハケが木肌を滑るシャッシャッという音が響き始めた。
子供の頃、誰もが一度は夢見た「秘密基地作り」。
大人の男たちが大真面目に、誰かの作業を便利にするために手と知恵を動かす。
すっかり夏の陽気となった青空の下、また新しい「手仕事」の汗が、爽やかに吹き出していた。




