キック野球盤の設計と、ものづくり集団の本領
水曜日。定時を迎え、昨日決まった「会社見学ツアー&セレクト鍋」の企画をさらにブラッシュアップするため、佐藤はいつもの喫茶店へと向かった。
店に入ると、サークルメンバーがすでに熱気あふれる議論を交わしていた。
「セレクト鍋は間違いなく受けると思うんだけどさ、食事と見学だけだとイベントとしてちょっと物足りないよね」
「前にやった『一芸大会』は楽しかったけど、毎回同じ企画ってわけにもいかないしなぁ……かといってルールや操作が難しすぎると、遊びに来てくれた子供やお年寄りが置き去りになっちゃう」
全員で腕を組んで頭を悩ませていると、渡辺さんがふと作業台の端材を見つめながら口を開いた。
「……いっそのこと、イベントで使う『遊具』から自分たちで作ってみないか?」
「手作り遊具!? いいねぇ! 簡単なものなら、ベニヤ板と木枠で簡易的な卓球台を作るとか?」
「ちょっとひねって、最近話題のフィンランドの発祥スポーツ『モルック』の木棒セットを作るのも面白そうだな。ルールは詳しく知らないけど、木の棒を倒すだけなら手作りできそうだし」
工作やものづくりの話題になると、さすが山口製作所のメンバーだけあって一気にアイデアが膨らんでいく。
そんなやり取りを聞いていた佐藤の頭の中に、ふと会社の有志で作っている「野球チーム」の存在が浮かんだ。
「あ……そういえばうちの会社、野球チームがありますよね。工場の敷地じゃ本格的な野球をする広さはありませんけど……テレビの『リアル野球BAN』みたいな巨大ボードゲームを敷地に再現したら面白くないですか!?」
「リアル野球BAN!?」
佐藤の提案に、鈴木さんと小林さんが思わず乗り出した。
「それめちゃくちゃ面白そう! でも野球ボールだと危険だし、バットで打つのは子供や女性には難しいかもな……」
「ベースは『キックベース』にしましょう! ボールも柔らかくて遠くに飛ばないスポンジボールを使って、ピッチャーが転がしたボールを足で蹴るスタイルにするんです」
「なるほど! で、グラウンドの地面やフェンスに『ヒット』『二塁打』『アウト』『ホームラン』って書いた区画やボードを設置しておいて、ボールが止まった場所で判定が決まる『リアル野球盤ルール』にするわけか!」
「それなら力のない小さなお子さんからお年寄りまで、だれでも蹴るだけで一喜一憂できますね! テレビ局のカメラ映えもバッチリですよ!」
方向性がバチッとハマり、メンバー全員の目がギラギラと輝き始めた。
「よし! さっそく手作りキック野球盤の設計に入ろう!」
カウンターの上に方眼紙と筆記用具を広げ、みんなで頭を突き合わせる。
ボール&バッター: 安全な大きめスポンジボールを使用。足で蹴るキックベース方式。
ボード&判定区画: 工場にある端材や段ボールを活用し、「ヒット」「2BH」「3BH」「HR」「アウト」のターゲット箱やパネルを製作。
仕掛け: 「HR」ゾーンには球が吸い込まれるような工夫や、当たり時に音が鳴るギミックを木工で仕込む。
「このフェンスの傾斜角はどうする?」「端材のベニヤでストライクゾーンのフレームを作ろう!」と、山口製作所の技術力を無駄に発揮したガチの設計図が次々と描き上げられていく。
ただの地域イベントにとどまらない、山口製作所ならではの「手作りリアル野球盤プロジェクト」。最高のイベントに向けて、ものづくり集団の本格的な試作と準備が今、始まろうとしていた。
方眼紙の上に広がった鉛筆の線と、次々とアイデアを描き足していくサークルメンバーの真剣な眼差し。
「ここに端材のベニヤで枠を作れば、ボールが跳ねてアウトゾーンに入る仕掛けができるんじゃないか?」
「それ良いね! ホームランゾーンに入ったらカチンと木と木が鳴るような簡単なギミックも仕込もうよ!」
セレクト鍋のメニュー構成に続き、工場敷地を舞台にした「手作りリアルキック野球盤」の基本構造が、手慣れたスケッチとともに着々と形になっていく。
安全面への配慮からルール設計、そして山口製作所ならではのちょっと無駄に凝った木工ギミックまで——。
地域のみんなとテレビ局の取材陣を驚かせる一大イベントへ向けて、ものづくり集団の本領が発揮される夜となった。




