AIコンサルの営業と、地に足の着いた現場
月曜日の朝。出社してデスクの整理をしていると、社長室から出てきた社長が苦笑いを浮かべながら歩み寄ってきた。
「佐藤くん、また例によってAIの売り込み電話がかかってきてねぇ……」
「またですか(笑)。『御社の業務をAIで劇的に自動化します!』みたいなやつですか?」
「いや、今回はちょっと毛色が違ってね。AIツールを売るんじゃなくて、コンサル会社が『AIを使って業務を代わりに請け負う(アウトソーシングする)』っていう提案らしいんだよ。しかも『導入費用は実際に稼働して成果が出たことを確認してからの後払いでいいので、どこかの部署で試しませんか?』なんて言ってきたんだ」
成果報酬型・後払いという甘い言葉に少しグラッときた様子の社長だったが、具体的にどこで使えばいいかが分からず頭を抱えていたという。
佐藤は山口製作所の各部署の動きを頭に浮かべながら、一つずつ検証していった。
「うーん……まず僕らの事務方ですけど、そもそも必要最小限の人数で無駄なく回してますよね。仮に業務を切り出してAIアウトソーシングに投げるとして、事務員を1人減らしてその人件費と同額をコンサルに払うなんて、雇用を守る意味でも組織の運営としても本末転倒ですし」
「そうなんだよなぁ。じゃあ現場の職人さんたちの作業か?とも思ったんだけど……」
「職人さんの手作業や長年の勘をAIでアウトソーシングするのは流石に無理ですし、提案させるだけ時間の無駄になりそうですよね。……あとは社長秘書業務くらいですけど、そもそも秘書なんていませんし(笑)」
「ガハハ! 確かに!」
話せば話すほど、導入できる部署が見当たらない。
今の山口製作所は、ベテランの職人さんたちが長年の技術で効率よく作業をこなし、シンプルな定型業務はすでにわかりやすいマニュアルが整備されていて誰でも即座に作業できるようになっている。そして事務方は、AIを補助的に使いつつ人間がダブルチェックする体制が完成していた。
つまり「無駄な人件費」もかかっていなければ、「改善の余地がある無駄な属人化」も存在しない。あるのは「職人の匠の技」か「すでに極限までシンプル化された業務」のどちらかであり、外注コンサルが入る隙間などどこにもなかったのだ。
「完全に手詰まりですね。でも……そこまで自信満々に『成果後払いで』って言ってくるなら、そのコンサル会社の腕前と提案力を一度見てみましょうか」
「そうだね! どんな提案をしてくるのか手腕拝見といくか」
社長は「うーむ、どんな出方をしてくるかなぁ」とぶつぶつ独り言を呟きながら、業者へアポイントの電話をかけに社長室へと戻っていった。
地に足のついた経営と現場の強みを再確認しつつ、佐藤はやってくるコンサルタントとの対決(?)を少し楽しみにしながら、今週の業務に取りかかるのだった。




