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僕が逃げた利器と得た安住  作者: 藤一


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まとまった三案と、バス移動の悩み

木曜日の朝。出社して社内アンケートの集計システムを開くと、ほぼ100%の回答が揃っていた。

都会の大企業にいた頃は、毎日督促メールを投げても1週間以上平気で放置されるのが日常茶飯事だった。それだけに、呼びかけに素直に応じ、締め切りをきっちり守ってくれる山口製作所の社員たちの真面目さと温かさに、佐藤は改めて胸が熱くなった。

「よし、この結果は今夜サークルの喫茶店に持って行ってから精査しよう」

年度末の繁忙期ではあるものの、事務方の集中力とチームワークでテキパキと仕事を片付け、定時ぴったりに一区切りをつけた。「お先に失礼します!」と同僚たちに声をかけ、佐藤は鈴木さんの喫茶店へと向かった。

店に入ると、今日はサークルメンバーが全員顔を揃えていた。

「佐藤くん、アンケート揃った?」

「はい! ほぼ全員分集まりましたよ!」

さっそくパソコンの画面をみんなで覗き込み、最終結果を分析していく。大枠の傾向は昨日の7割時点と大きく変わっていなかったため、予定通り「3つのコース」に分ける方向で合意した。

1. 【Aコース:がっつり雪山・温泉満喫グループ】

初日からナイター、2日目も思う存分スキー・スノボや温泉を楽しむスポーツ特化型。

2. 【Bコース:歴史・名所巡りグループ】

1日目:世界のガラス館、野口英世記念館周辺、猪苗代湖遊覧船(時間があれば天鏡閣)。

2日目:會津藩校日新館、飯盛山、鶴ヶ城をじっくり巡る王道歴史探訪ルート。

3. 【Cコース:体験・散策・カフェ巡りグループ】

1日目:Bコースと同行程。

2日目:道の駅ばんだい、会津武家屋敷(赤べこ絵付けまたは会津絵ろうそく作り体験)、鶴ヶ城、野口英世青春通りのレトロカフェでコーヒータイム、七日町通りの街並み散策。

「いいんじゃない! これなら家族連れも職人さんもOL層も、全員が一番やりたいことを選べるよ!」

メンバーから絶賛の声が上がり、昼食の「会津ラーメン」や「馬刺し」を食べられる店も各ルートに組み込むことで合意した。

しかし、次に浮上したのが「バス車内とホテルでのアクティビティ」の課題だった。

「移動はバス3台に分かれるわけだから、全体で一体感のある企画をやるのは難しいよな。それに今の交通法だと、走行中の車内移動なんて当然禁止だし……」

「ほとんど高速道路とはいえ、車酔いする人もいるだろ? モニター画面をずっと見させたり、静かに寝たい人の邪魔になるような騒がしいゲームも避けたいよなぁ」

絶妙な塩梅が難しく、なかなか良いアイデアが浮かばない。

「……よし、車内案は一旦置いておいて、ホテル側での企画を先に考えよう!」

ホテルでの食事はバイキング形式で確定しているため、狙うべきは「夕食の前」と「夕食の後」だ。

「夕食前は、ホテルのサービスを活かして地酒の軽い試飲や、外の焚き火スペースで暖かいコーヒーを飲みながらゆったり過ごす時間にしよう」

「問題は夕食後だな。宴会場を借りるとしても、みんなお酒が入ってるし、他の宿泊客に迷惑がかからない範囲で全員で盛り上がれることって何だろう……?」

うーんと頭を抱え、全員の知恵を絞ってみたものの、決定的なアイデアが出ないまま時間が過ぎていった。

「ダメだ、さすがに今日はもうネタ切れだな! ここまでにしよう」

鈴木さんの声掛けで切り上げることになった。

「明日はまず会社でこの『3コース案』をみんなに発表して承諾をもらおう。OKが出たら、旅行代理店にバスの詳しい立ち寄り先や運行スケジュールを相談だな」

車内と夜のイベントという宿題を残しつつも、旅の輪郭は着実に整いつつあった。佐藤はノートを鞄にしまい、明日からの具体的な調整に向けて気持ちを新たにするのだった。

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