アンケートの回答と、頼もしい事務方
水曜日、出社してパソコンを開くと、すでに社内アンケートの回答が全体の3分の上集まっていた。
「おっ、みんな仕事が早いな!」
期待に胸を膨らませて結果を確認してみた佐藤だったが、画面を見進めるうちに苦笑いを浮かべることになった。
集まった回答の半分は、工場で働く職人さんたちからの「任せた! 選べん!」という一言。残りの半分は「初日からナイターまで全力でスキーがしたい」というスポーツ情熱派か、「温泉に入って酒さえ飲めればどこでもいい」という投げやりな回答で占められていたのだ。
(まあ……本当に真剣に悩んで選んでたら、こんな朝早くに回答を出せるわけないよな……)
参考になったような、全くならなかったような結果に苦笑しつつ、佐藤はそっと集計画面を閉じた。
そこへ、社長がトコトコと歩み寄ってきた。
「佐藤くん、ちょっといいかい? 今の事務方の仕事量って、過度になってないかな?」
「え? 事務方の増員ですか?」
「うん。近々、定年退職する職人さんがいるから中途採用の募集をかけようと思っててね。引き継ぎ期間も考えなきゃいかんし。もし事務方も手が足りないなら、一緒に一人くらい雇おうかと思って確認したかったんだよ」
社内の状況をしっかり見てくれている社長の気遣いに感謝しつつ、佐藤は正直に自分の考えを伝えた。
「気にかけていただきありがとうございます。正味な話、忙しくないと言えば嘘になりますけど、毎日定時付近で上がれるレベルの業務量です。今新しい人を入れても、かえって手が余ってしまうかもしれません」
「そっか! 了解、じゃあ今回の募集は職人さん枠だけに絞っておくね」
社長は満足そうに頷き、社長室へと戻っていった。
事務方の執務室を見渡すと、同僚たちは3月の年度末に向けた書類整理や決算準備で忙しそうに電卓を叩いている。確かに今は繁忙期だが、全員が自分のペースで着実に仕事をこなしていた。
デスクに戻った佐藤は、パソコン画面に向かい合って作業を再開した。
業務にはAIツールも導入している。膨大なデータの中からサーバー内の過去ファイルを一瞬で検索したり、Excelでの複雑な計算の「検算」をさせたりと、下準備のスピードアップには大いに役立っていた。
(最低限の契約プランでもこれだけ動いてくれれば十分だな。でも……最後はやっぱり人間がチェックしないと)
どれほど便利なツールであっても、1円単位のミスも許されない経費計上や決算書類において、AIを過信するのは禁物だ。前職でもAIの得意な領域と苦手な領域を嫌というほど見てきた佐藤は、その限界をよく理解していた。
社内から提出される領収書の中には、「これ本当に経費でおちるの?」と首をかしげたくなるようなものも混ざっている。しっかりと精査しておかないと、後から税務署の確定申告で弾かれて手戻りが発生してしまう。
「みんな、AIの自動チェックは便利だけど、最後の領収書の科目確認と計算だけは必ず自分の目でダブルチェックしようね。ここで横着して弾かれたら、後から何倍も面倒くさい手戻りが来るからさ」
執務室の同僚たちにそう声をかけると、「確かに!」「一番面倒なのは手戻りだもんね」と深い納得の返事が返ってきた。
メリハリをつけて働き、お互いを信頼し合える環境。佐藤はキーボードを叩く手に力を込めながら、この職場への愛着をまたひとつ深めるのだった。




