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僕が逃げた利器と得た安住  作者: 藤一


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カラーボックスと、無心の手作業

火曜日の朝。目を覚ましてベッドから起き上がった佐藤は、ふと自分の手元を見つめながら首をかしげた。

(……そういえば最近、旅行の企画やイベントの準備ばかりで、純粋に『自分の手でモノを作る』ってことをやってないな)

ものづくりの会社である山口製作所に転職し、サークルでも色々と手作業を楽しんできたからこそ、無性に何かを組み立てたい衝動に駆られていた。

朝食の席で、佐藤は向かいに座る両親に尋ねてみた。

「ねぇ、家の中に何か壊れてて直したいものとか、買ったけど組み立ててないものってない?」

「えっ? 急にどうしたの?」

唐突な質問に驚いた様子の母親だったが、思い出したように居間の隅を指さした。

「あぁ、それなら……そこに通販で買ったまま放置してあるカラーボックスが四つあるわ。組み立てるのが面倒になっちゃってそのままなの。もし組み立ててくれるなら、最後に倒れないよう金具で四つを連結して固定してほしいんだけど……大丈夫?」

実家にいた頃の佐藤は、家具などを購入する際はいつも業者に組み立て料金を払って配送・設置まで頼むのが当たり前だった。そのため、DIYや家具の組み立てなど一度もやったことがなかったのだ。

「大丈夫、やってみるよ。今の自分なら説明書も図面も理解できるし、ネジだって真っ直ぐ打ち込めるからさ」

そう胸を張って答え、佐藤は出社した。

一日の業務を終えて帰宅すると、さっそく作業着に着替えて梱包された箱を開けた。

最初は「ええと……この板とこの板を、付属のAのネジで固定して……」と説明書を声に出して読み上げながら、慎重にドライバーを握り締めていた。しかし、ひとつ組み上がって要領を掴むと、持ち前の器用さと手際良さが発揮され始める。

口数は減り、無心で黙々とネジを回し、板を組み組み……トントンと木槌で調整していく。

(ネジを締める位置の角度、板の合わせ目……なるほど、山口製作所の作業現場で教わったコツがここでも活きてるな)

作業を始めて約2時間。四つのカラーボックスは見事に組み上がり、指定された場所でしっかりと補強金具を使って連結・固定された。

「出来たよ! これ、どこに置く?」

作業を終えた佐藤が声をかけると、居間から様子を見に来た両親は目を丸くして驚いた。

「うそ、もう四つとも出来たの!? 本当にこういうことサッサとやるようになったのねぇ……」

「あぁ、手際が良いもんだなぁ。昔は説明書を見るのも嫌がってたのに」

感心したように完成した棚を撫で回す両親の姿に、佐藤は少し気恥ずかしさを感じつつも、誇らしさと嬉しさがこみ上げてくる。

自分の手が、技術が、確実に変わってきている。

旅行の計画に追われる日々に訪れた、小さくも確かな成長を実感する一日となったのだった。

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