才の神の火と、小さな幸せ
家へと続く夜道を歩いていると、少し離れた広場からパチパチと薪がはぜる音と、空を橙色に染める大きな炎が見えた。
(あ、そうか……今日は1月15日、小正月だ)
街では伝統の火祭り行事である才の神——「どんど焼き」が行われていた。吸い寄せられるように広場へ近づき、遠巻きに大きな火を眺めていると、人だかりの中に聞き覚えのある声と見慣れた後ろ姿を見つけた。両親だ。
近寄ってみると、二人は長い竹竿の先に針金で網を取り付けたものを持ち、炎の熱気に顔をほてらせながら、網に乗せたお餅とスルメイカを真剣な目つきで炙っていた。
(あぁ、懐かしいな……)
幼い頃、両親に手を引かれてこのお祭りに来、竹竿の先で焼いてもらった香ばしいお餅を「熱い熱い」と言いながら頬張った記憶が蘇る。
周囲を見渡すと、近所の人々が昨年お世話になったお守りや破魔矢、正月飾りを次々と炎の中へ投げ入れ、手を合わせている。冬の澄んだ夜空に勢いよく立ち上る炎は驚くほど温かく、街の人々がそれぞれの願いや感謝を神様に届けているようだった。
「見てごらん。今年も良い年になるといいなぁ」
炎を見つめながら佐藤が新年の無病息災を願っていると、両親が「ほら、ちょうど良く焼けたわよ!」と声をかけてきた。網の上では、お餅がぷっくりと膨らみ、スルメイカが香ばしい匂いを漂わせている。
「よし、冷めないうちに帰って、これをつまみに一杯やろうか」
父親の提案に頷き、三人で並んで歩いて家へと戻った。
帰宅後、一番にお風呂に入って冷えた体を温め、居間へ向かう。するとテーブルの上には、先ほど焼いたお餅とスルメイカが食べやすい大きさに切り分けられ、冷えたお酒と一緒に用意されていた。
「いただきます」
香ばしいスルメイカを噛み締め、熱燗を一口含み、焼きたてのお餅に少し醤油を垂らして口に運ぶ。
大晦日の蕎麦から始まり、新年の初詣、大盛況だった餅つき大会、そして今夜のどんど焼き。
東京で慌ただしく働いていた頃には味わえなかった、地元の季節の移ろいと、家族や仲間と過ごす温かな時間。
「ふぅ……最高だな」
ゆったりと流れる贅沢な時間に身を任せ、佐藤は新年早々の深い幸せを、静かに噛み締めるのだった。




