第十三章 「お前のそれ」の話、あるいはわかりませんということ
道が、開けた。
岩場が少し広くなって、全員が自然に同じ場所に出た。今まで少し距離を置いて歩いていたのが、地形の都合でひとところに集まった。
山頂が見えていた。さっきより、近かった。
男が、エリィの方へ歩いてきた。
自然な歩き方だった。でも目的のある動き方だった。
「お前の持っているものを、少し見せてもらえるか」
脅しではなかった。命令でもなかった。取引の言い方だった。取引に慣れた人間の、当然の声だった。
エリィは男を見た。
荷物の中の本のことだと、わかった。
「見るだけですか」
「そうだ」
エリィは荷物から本を取り出した。考えてから出したのか、考える前に出したのか、後から思い出そうとしても判断できなかった。
男が手を伸ばした。
そのとき、足元の草の縁が、ほんの一瞬だけ金色になった。
エリィは気づかなかった。
男は気づいていなかった。
カエルだけが、その色を見た。
男の指が、本に触れた。
何も起きなかった。
本は本のままだった。色が変わらなかった。音がしなかった。男の指の下で、ただ革の表紙があった。
男の手が、止まった。
それから、引いた。
自分の手を見た。指先を。手の甲を。何もなかった。変わっていなかった。ただの手だった。
それから山頂の方を見た。
第十章の庭で見た顔と、同じ顔だった。空白だった。ただし今回は短かった。確かめて、答えが出なかった顔が、すぐに動いた。
男は歩き始めた。山頂の方向へ。
誰も呼び止めなかった。
エリィは本を手に持ったまま、少し立っていた。
一拍あった。
「バグみたい」とエリィは言った。
小さな声だった。誰かに言ったわけではなかった。ただ、そう思ったので、言った。
エリィは本を荷物に戻した。
確認した。
本が、あった。青の板が、一枚。
それだけだった。
カエルが、隣に来た。
男が歩き去ってから、少し間があって。気づいたら、そこにいた。
カエルは前を向いていた。山頂の方向でも、男の後ろ姿でもなく、ただ前を向いていた。
「お前のそれは、何なんだ」
カエルが言った。
エリィはカエルを見た。
「そこから来ているのか」とは言わなかった。「能力か」とも言わなかった。ただ「お前のそれ」だった。カエルにも言葉がなかった。でも、見えていた。庭から、橋から、白の板から、ずっと見ていた。それが全部、今ここに出てきた。
エリィは少し考えた。
考えて、考えて——答えが出なかった。出なかったのは、知らないからではなかった。知ろうとしたことが、今まで、なかったからだった。自分の方に注意を向けることが、いつも後になった。他の方を見ていると、自分を見る時間がなくなった。
「わかりません」とエリィは言った。
腹が、鳴った。
「わかりません」と言ったすぐ後に。大きく、はっきり。
少し間があった。
「そうか」
ヴェルト師の声だった。
老人はエリィの少し後ろにいた。前を向いていた。誰に言ったのかわからない声だった。
カエルは何も言わなかった。
でも、何かが——緩んだ。
第七章で花野原の花を見ていたとき、何かが動いた。あのときと同じものが、今、少しだけ動いた。妻の顔ではなく、別の方向に。エリィとも違う、もっと遠い、でも確かな方向に。
それだけだった。
三人で、また歩き始めた。
男は先を歩いていた。遠くなっていなかった。でも、前にいた。
エリィとカエルが並んで歩いた。
意識して並んだわけではなかった。地形の都合で、そうなった。でも、並んだ。
ヴェルト師が後ろにいた。
山頂が、また少し近かった。
白くて、静かで、変わらない山頂が、確かに近づいていた。
金属の音が、聞こえていた。
等間隔だった。でも今日は、速かった。橋を渡る前より、花野原にいた頃より、速かった。
等間隔のまま、速かった。
まるで何かが、もうすぐ終わるような速さで。




