第十四章 山頂の話、あるいは最初の問い
道が、終わった。
終わった、というのは比喩ではなかった。岩場を一歩上ると、上る場所がなくなった。
そこが山頂だった。
思ったより普通だった。
白くて静かで、遠くから見ていたときと同じ場所を想像していたが、近くで見ると岩だった。ただの岩が積み重なった、高い場所だった。特別に輝いていなかった。怖くもなかった。光は薄く、どこから来るかわからない光が全体に満ちていた。それだけだった。
金属の音が、しなかった。
初めてだった。
男が先にいた。
山頂の少し奥に立っていた。背中を向けていた。何かを待っているような格好だった。
何かが落ちてきた。
音がした。
金貨が一枚、岩の上に落ちる音だった。
男が手を伸ばした。拾った。
手の中を見た。
長い間、見ていた。
山頂まで来て、一枚だった。
男はその金貨を、しばらくのあいだ見続けた。それから、ポケットに入れた。入れてから、山頂をもう一度見渡した。岩だった。ただの岩場だった。光が薄く満ちていた。それだけだった。
男は歩き始めた。
来た道を戻る方向へ。
エリィの横を通り過ぎた。エリィは男を見た。男は前を見ていた。エリィの方を見なかった。
やがて、男の姿が岩の向こうに消えた。
静かだった。
カエルが、山頂の端の方に立っていた。
何かを聞いていた。
エリィにはわからなかった。音がするわけではなかった。ただ、カエルの体の向きが、耳を傾けている人間の形をしていた。遠い声を、あるいは遠い沈黙を、受け取ろうとしている格好だった。
エリィは近づかなかった。
遠くから見ていた。
カエルが動いた。岩の前にしゃがんだ。何かに触れるように手を伸ばして——何もないことを確かめるように、手を戻した。
顔は見えなかった。
しばらくして、カエルが岩の上に座った。背中が、少し丸くなっていた。泣いている背中ではなかった。ただ、重いものを下ろした後の背中だった。下ろしてみたら、思っていたより形が違ったものを、確かめている背中だった。
エリィは荷物を下ろした。
内側のポケットに手を入れた。
板が、一枚。
青を取り出した。
岩の割れ目に置いた。何と言うか考えなかった。考える前に手が動いていた。ただ、ここにあってくれ、と思いながら、触れた。
岩の割れ目から、水が出た。
冷たい、きれいな水だった。
エリィはカエルに声をかけようとして、かけなかった。カエルは気づいていた。振り返らずに、手を伸ばした。水を飲んだ。
板はもうなかった。
エリィは荷物を確認した。
内側のポケットに、何もなかった。
本が、あった。
荷物の中に、それだけが、あった。
エリィは山頂の真ん中に立った。
何も起きなかった。
しばらく待った。
それから、何かが来た。
音でも、声でも、光でもなかった。ただ、何かが、エリィのところに来た。重さとして。あるいは、問いとして。
役目があるか、と聞かれた気がした。
聞かれた気がしたが、聞いたのが誰かはわからなかった。
エリィは少し考えた。
考えるより先に、答えていた。
了解の仕方は、いつもそうだった。理由より先に、体が知っていた。炎を起こしたときも、板を使い切ったときも、そうだった。
何を与えることになるのかは、わからなかった。でも、そうすることは、わかった。
静かに、そこで決まった。
ヴェルト師が、エリィの隣に来た。
老人はエリィを見た。山頂は見なかった。ここに来たことがあった。もう一度見に来た。それだけだった。
「よかった」と老人は言った。
エリィは少し驚いた。師がそういう言葉を言うのを、聞いたことがなかった。
「師も、同じところに立ちましたか」
老人は答えなかった。
でも、否定もしなかった。
エリィは本を取り出した。
荷物の中から、最後に残っていた本を。受け取るかどうかを、まだ決めていなかった本を。
開いた。
中を見た。
書かれていた。
金林檎はおやつに含まれますか
それだけだった。
他には何もなかった。全部の答えが入っているはずの本の中に、答えではなく、ただ最初の問いだけが書かれていた。
エリィはその文字を、しばらく見た。
それから、少し考えた。
それから、本を閉じた。
荷物に戻した。
何も言わなかった。でも、何かが決まった。
腹が、鳴った。
山頂の静けさの中で、はっきりと。
カエルが振り返った。ヴェルト師が何かを言いかけて、言わなかった。
「すみません」とエリィは言った。
誰も答えなかった。
でもそれは、答えなくていい種類の言葉だった。
山を降り始めたとき、また聞こえた。
金属の音が。
山頂では聞こえなかった。初めて、静かだった。でも降り始めると、また聞こえ始めた。
ただ、今日は違った。
遠くからではなかった。
荷物の中から、聞こえるような気がした。本の中から。開いたら最初の問いしかなかった本の、どこかから。
気のせいかもしれなかった。
でも、そんな気がした。
エリィは荷物を背負い直して、歩き続けた。
おわり
エピローグ
それからというもの、北の国では飢える子が減ったそうです。
けれど夜になると、山の方から金貨の鳴る音が聞こえるので、巡礼者たちは皆、足早に祈りを終えるのでした。




