トラゴ
次回の投稿は諸事情により水曜日の12時に投稿します。
壇上に上がったあいつは自分の前に並ぶ生徒全員を見渡すと口を開いた。
「俺の名はトラゴ・スペード」
俺の方から顔を見ることは叶わないがあいつの声は抑揚のないものだった。
「俺がここに来た目的は強者に会うためだったが……期待はずれだな」
あいつがそう言った瞬間ここにいるもの全員の目つきが変わったようだった。
そんな周りの変化に気づかず、いや気にせずやつは続ける。
「俺と同じ立場だという魔術師を見た時からもしやと思ったが本当にそうだとはな」
俺を見たときに?どういうことだろうか?
「どいつもこいつも弱者ばかり、俺が来たのは無意味だったようだな」
奴が口を閉じると同時に生徒の目つきは怪訝な物を見る目から怒りを向けるように鋭いものに変わった。
俺も含めた全校生徒が馬鹿にされた。
皆そのことを理解したが誰も口を開かない。
罵声を浴びせることも、物を投げるような暴動も起こさず静かに怒りを向けるだけだ。
俺はそのことに少し関心していたがそれ以上にあいつに怒りを覚えていた。
初対面で軟弱と罵り、壇上では弱者と言われる。
特待生ならば俺と同い年だろう奴だが、俺にとって精神年齢的に年下の奴に馬鹿にされるのは言いようのない怒りを覚える。
教師たちはこの様子に何も言わず、注意もせず淡々と進行を続ける。
トラゴは壇上からおり、俺の隣に立つとまた目をつむり、黙りこくる。
するとジェラルドさんは俺の前に立ち、壇上に行くように促す。
俺が全校生徒の前に立ったとき、俺の頭には前日に考えたスピーチなぞ残ってはいなかった。
無難に作り、面白みもかけると作っている時に思っていた文章はとうに消え去り、感情のままに俺は言葉を繋いだ。
「俺の名前はディーノ・フォレスタです」
先ほどのスピーチで頭に血が上っているのは俺だけではないようで生徒たちも俺よりもトラゴの方を見続けているのが上から見て分かる。
「俺は強くなるためにこの学園に来たのですが……」
俺の言葉に生徒たちはこちらを向く。
トラゴと同じように俺たちを罵倒するのかと言いたげな目をしている。
「先ほどの彼の目は節穴のようですね。ここに弱者はいないようだ」
そう言うと前からくる視線は弱くなり、逆に後ろから強烈なプレッシャーが来た。
後ろに顔を向けずとも分かる。
これは俺に向けたトラゴの威圧だろうが俺は気にぜず話を続ける。
「壇上に立って皆さんを見て自分はここに来てよかったと確信が持てました。 これからよろしくお願いします。」
怒りを隠し、笑顔でそう言い終えた俺は元の位置へと向かう。
そこには目を開け、俺を睨むトラゴがいた。
その目に俺は睨み返し、横に並ぶ。
そうすると先程と同じように教師であろう人達の中からひとり壇上に上がり、話し始めた。
「どっちの目が節穴なんだかな」
小さく、俺にしか聞こえないような声で右に居るトラゴは声を出した。
壇上の人の話は内容は学園生活における注意のようなものだったが俺はそれを耳で聞き流していた。
「はっ! そりゃ緑の誰かさんしかないだろうさ」
「ふっ! どうやら俺の隣にいる軟弱モノは弱者どころか愚者のようだな」
「周りのことすらも分からないメクラよりはマシかな」
そう言い合うと俺は右手に持つ杖を強く握り、トラゴは右手に持っていた剣の柄に手をかけ始めていた。
一触即発といった雰囲気があたりに流れる。
壇上にいた人は話を終え、階段を下りていた。
その人が階段を下りきると同時に顔を右に向け杖を振ろうとし――
「まぁまぁ、待ちなさい」
肩に手を掛けられた。
トラゴも俺と同じように仕掛けようとして剣を抜こうとしている格好で肩に手をかけられていた。
肩の手の先には50代ほどに見える男性がニコニコとしていた。
俺もトラゴも毒気を抜かれ、剣呑とした空気が壊れた。
冷静になった俺が視線を回すと周りの教師や列の先頭で俺たちをよく見える生徒たちはギョッとした表情でいるのが見える。
「もうちょっと待ちなさい。舞台は用意しますから」
そういうと俺たちを止めた人は壇上を登る。
登りきった彼は話を始めた。
「皆さん、どうも校長のコズモです。 本来の予定なら特待生のトラゴ君、ディーノくんを紹介し私がここで話して今日の予定は終了だったのですが――」
そこで話を切り、校長は俺たちを一瞥すると話を続けた。
「どうやら、彼らは血の気が流行るようでこのままでは不完全燃焼でしょう。 ですので今から真の特待披露を始めたいと思います。」
「なっ! 校長! 今から始めるのですか!?」
校長の言葉に一人の教師が声を上げる。
「ええ、このままじゃ収まりそうにないですから今やっちゃいましょう」
「しかし、相手の方を今から呼んでは――」
「いえ、相手の方たちを呼ぶ必要はないですよ」
「じゃあどうするんですか!?」
「せっかく二人いるんですから彼ら同士でやらせてしまいましょう」
「しょ、正気ですか!? 校長!?」
「大丈夫ですよ。 十分配慮しますから」
「しかし!」
なおも校長の言葉に食い下がろうとする教師の方に手を掛けられた。
「こうなっては校長は動かん。 諦めて任せるとしよう。」
そうジェラルドさんに言われた教師は肩を落とした。
生徒の誰かが校長に疑問をぶつけた。
「あ、あの! 真の披露ってなんですか?」
返事をする校長はニコニコとした表情を崩さず、こう答えた。
「彼らに戦ってもらうんですよ」
一週間開けた割に出来が悪い……ここ本当にどうすればいいのかわからなかったんですよ。 喧嘩を売ったことがないのでやり方がわからん。




