イブリード
次回の投稿は日曜日12時です。
その日のミャゴーレは普段に比べて笑い声がひとつ多かった。
昨日より始めている魔力操作の修行の疲れで昼飯時よりも後の時間に起きたディーノはズボンとシャツだけのラフな格好で食堂の方に降りた。
目向け眼をこすりながら階段を降りていると何やら笑い声が聞こえてきた。
ディーノはそれなりにここに泊まっているのにこの時間に笑い声を聞くのは初めてのことだった。
この時間ならレガーレさんやフィリオ君は食器の後片付けに夜の仕込みに忙しいはずだし、カリーノさんは出かけていたり宿の手伝いをマードレさんは仮眠を取っている時間でミャゴーレは静かになる時間だ。
それなのにこんなに笑い声が聞こえるのはなんでだろうと思い部屋に入ってみるとそこにはヴィッコラ一家全員と一人の見慣れない獣人族の人がテーブルを囲んでいた。
「はははは! そうだな! それはきついものがあるな!」
「笑い話じゃないっすよ〜 毎日毎日あんなの見せられてもうキツイのなんの……」
「まぁそう言わないの、それ以外はいい人なんでしょ?」
「まぁそれはそうっすけど……」
「じゃあ、文句言わないの! 誰にでも欠点にひとつやふたつあるんだから――ってあら?」
「ディーノさんじゃないですか! どうしたんですか? こんな時間に?」
「おはよう、フィリオ君。 寝起きでちょっとお腹がすいたんできたんだけど……」
みんなが話し込んでいたところにいきなり入ってしまったみたいでディーノは気まずい状況になったがとりあえず要件を伝えることにした。
「お、そうか、じゃあすぐに用意してやるよ待ってな」
レガーレさんが立ち上がり、厨房の方へ向かう。
レガーレさんを目で追い、下のテーブルに戻すと先程までみんなと談笑していた獣人族の人と目が合う。
その姿はヴィッコラ家の人たちと同じライオンの獣人の姿で、カリーノさんと似た耳と尻尾が生えているいるがそれ以外は普通の人間と同じような姿だ。
身長は座っているのでよくは分からないが自分と同じくらいだろうか、顔は童顔だが整っていてほほに映えるヒゲが特徴的だ。
気まずい空気が流れそうになったところでマードレさんが彼を紹介してくれた。
「ディーノくん、この子は私の甥っ子のイブリード。 イブ、こちらの方がさっき話してたディーノくんよ。」
「え! この人がっすか!?」
マードレさん達は俺の話を彼にしていたらしい、彼は目を見開いて驚く。
「初めまして! おいらはイブリード。 イブリード・ヴァイルって言うっす! イブって呼んでくださいっす!」
イブリードと名乗った彼は椅子から立ち上がり、お辞儀をする。
「俺はディーノ。 ディーノ・フォレスタ、よろしく。」
俺も軽く自己紹介するとカリーノさんが俺にイブリードについて話し始めた。
「イブはお父さんの弟の子供でね。 本当ならテリアトピアの近くの方の学園に入るはずだったのになんでかこっちの学園に来ちゃったんだよ。」
「へ〜、じゃあ一年生ですか?」
俺がそう言うとイブリードを除く3人が口に手を当て笑いをこらえていた。
「違うっすよ! これでもおいらは来年から3年生!」
「うぇ! 年上!? まじで!?」
俺は彼の身長から俺と同い年かと思っていたが違ったらしい。
「もう、どいつもこいつも見た目で判断するなっす!」
どうやら彼のトラウマでも掘り起こしてしまったらしい、ぶつぶつと呪詛にも聞こえる何かを話している。
笑い声を抑えていたフィリオ君が俺に説明してくれた。
「イブ兄ちゃんは僕たちの中でも成長が遅いんですよ。 だからまだディーノさんとそう変わらない身長なんです。 本当ならイブ兄ちゃんくらいの年ならもっと大きいんですけどね。」
「それで昔から家族からからかわれていたのよ。 だから余りイブの身長については触れないであげて。 イブもあまり気にしてないとは思うけど触れるとああなっちゃうから。」
マードレさんがそこまで言うとイブリードは俺に向き直った。
「ふう、そういえばディーノくんがここの新メニュー考えたんすよね? ホントありがとうっす!」
「? どういうこと……ですか?」
年上だと途中で思い出し敬語にするが少し変になってしまった、しかしイブリードはそれを気にせず俺に近づき、肩を組んで周りに聞こえないよう小声で話し始めた。
「実はおいらがテリアトピアからこっちに来たのはみんなのことが心配だったからなんす」
「?」
俺はまだ容量を得なかったが続きを聞いてようやく納得した。
「ここの経営がうまくいってないってのはテリアトピアの家族の中でも度々出ていて…… それでも大丈夫だろうってほかのみんなは言ってたんすけど、おいらは心配になってこっちの手伝いもできるようにってテリアトピアから来たんすよ。 少し前までは手伝いを引き受けてたんすけど、これからの時期は忙しくなるだろって、手伝いをさせてくれなかったんすよ。 それで大丈夫なんだろうかって、寮で不安になってたんですけど、最近になってミャゴーレの経営がうまく行っているっていうのを風の噂で聞いてきたっすけど――。」
イブリードはそこまで話すと顔を離し、声量を元に戻した。
「それが君のおかげらしいっすから、だからありがとうっす!」
「ああ、いや俺も皆さんには世話になっているしお互い様ってことで」
「それでもっす! オイラにできることがあれば言ってくださいっす! 手伝いますから!」
イブリードの話が終わるやいなや厨房からレガーレさんが出てきた。
「おうディーノ、軽食できたぞ」
「あ、ありがとうございます。 じゃあ俺は部屋で食うんで。」
俺はレガーレさんからトレーを受け取り、部屋に戻ろうとする。
「あらいいのよ、気を使わなくっても」
俺の意図を察したマードレさんが俺を静止する。
「いえ、団欒の邪魔はしたくないですから、じゃあ」
俺はほかに何か言われる前にさっさと部屋に行くことにした。
俺が行ったあとまた話を始めたようだ。
詳しくは聞こえないがまた笑いあっていることだろう。
(そういえば三年生って言ってたか…… ってことはまた学園で合うかもな)
彼との再会も遠くはないことを予感しながら俺は部屋に入った。
累計pv10万を達成いたしました! これもひとえにご覧になられている読者の皆様のおかげです! これを励みにより一層、書いていきたいと思います。 次回からは学園編の半ばになります。 お楽しみください。




