レガーレの回想
次回は水曜日12時です。
そいつがやってきたのはなんの変哲もない日の夕方だった。
俺はあいつがやって来たとき厨房で働いていて全く気がつかなかった。
対応したのは俺の自慢の妻であるマードレだった。
マードレに新しい宿泊者ができたと聞いた俺はそいつが金欠のために厨房で手伝いをしてくれる学生の卵と聞き、ああそういえば今年は通達が出ていたなと思い出した。
その通達とは今年は学生寮が満杯のため宿泊施設を経営している者には学生の受け入れをして欲しいといいものだった。
俺としては明日から人手が増えるのはいいことだとそいつ自身のことに関しては特に気にしていなかった。
新しい宿泊者、ディーノと顔を合わせたのは次の日の朝のことだった。
いつも通り、宿泊者達の朝飯を作りながら昼以降の仕込みもしていたらカウンターに一人の男が座った、そいつが見たことのなかった顔だったから新しい宿泊者だと直ぐにわかった。
ディーノが食べ終えたところで俺はそいつに話しかけた。
第一印象は礼儀正しい肝の据わったの子供だった。
俺の見た目はセントルに住む者の中ではいかつい方に入る部類だ、話しかけると怖がってまともに会話が成立しないこともある。
でもそいつは少し怖がってはいたものの俺の顔から視線を離さず会話をした。
こいつなら厨房で働かせても問題はないな、俺はただそう思うだけだったその時は。
その日の夜、俺は朝に抱いた印象をいきなり覆されることになった。
手伝いをするといったディーノに皮むきを任せると俺の仕事が一段落する頃に終わらせてこちらに来た。
そいつに賄いを出そうというとなんとそれを拒否し自分で作ると言い出したのだ。
俺はそいつが何を作るのかが気になり後ろで見届けることにした。
ディーノが用意した食材は卵、ご飯、ネギ、燻製肉、調味料各種だった。
使う食材が高級品とかだったのなら止めに入っていただろうがこれならいくら使っても問題はない。
むしろ、余りがちなこれらを使ってくれるのはありがたささえある。
しかしなぜご飯を出しているのだろうか?まだお釜の中に入れていたほうがいいと思うのだが……
するとディーノはご飯には目もくれず卵を割り、かき混ぜ始めた。
その様子一つでディーノが食事を作りなれているというのはわかった。
しっかりと黄身と白身を切るように混ぜつつも卵のコシが残るようにしている。
そして混ぜた卵に塩と胡椒を少し振りさらに混ぜる。
この歳でひとりで食事を作れるのに関心しているとディーノは次の工程に入っていた。
燻製肉を一口サイズに切り、フライパンに油を流した。
脂の量が多くないか?と俺は疑問に思ったがとりあえずは見守ることにした。
ディーノは温度が高くなってきたフライパンの上でネギを切り、火を通し始めた。
その様子を見たディーノが手をフライパンの下にかざすと途端に火の勢いが強くなった。
俺はそれが魔法によるものだとすぐに気づいたがなぜここまで火の勢いを強くする必要があるのだろうか?
ネギに十分火が通るとディーノは卵を流した。
必要以上の温度になったフライパンによって卵は瞬時に固まり始めた。
するとディーノはいきなりフライパンにご飯を投入したのだった。
な! ご飯は既に食べれる状態だ、ここで火を通す意味なんて……
俺はディーノがご飯の食べ方を知らないのではと考え止めるか悩んだが真剣な表情でフライパンを振っているディーノを止められなかった。
改めてフライパンの方に視線を向けるとそこには俺の見たことのない光景が広がっていた。
そこにはパラパラと宙を舞う米の姿があった。
その光景に俺は驚きを隠せなかった。
なぜなら俺の使う米は世間一般で言う米よりも粒が小さく、炊いた時には弾力の出るもので米の一粒一粒がバラバラになることなど水加減を間違えた時にしか起こらないものだからだ。
それなのに俺の目の前には米が一粒一粒パラパラと宙を舞っている。
ディーノは俺の驚きを余所に調理を続けた。
燻製肉や塩コショウを振り、さらにフライパンを振る。
そこまで言って俺はようやくディーノの一連の行動に合点が言った。
ご飯を出していたのは卵を入れてすぐに投入できるよう準備のため。
脂の量が多かったのは卵が焦げ付かないようにするのとご飯の粒を別れさせるため。
火を強くしたのはご飯を火に直接当て水分を飛ばすため。
俺がディーノの行動の意味がわかったとき、ディーノは火を止め、皿に料理を移したところだった。
俺はディーノに詰め寄りその料理を食べてみた。
それは俺の想像した通りの味だったが美味しかった。
米を使ったこんな料理があるなんて……
俺はディーノにこれ以外にも米料理はあるのかと聞くと肯定した。
こいつにそれを教えてもらえばミャゴーレは、米料理が流行るかも知れない。
そんな希望を抱いた俺はディーノに提案を出した。
その後ディーノはこのミャゴーレの、米料理の飛躍に大きな手助けをしてくれた。
俺はこいつに感謝してもしきれないようなものを貰った。
だからコイツに困ったことが起こったならなんでも手助けをしようと思った。
しかしその時でも俺はディーノがどんな人間なのかまだよくわかってなかったようだ。
甥っ子からディーノがどういうやつなのかと詳しく聞いたときには腰が抜けそうになったもんだ。
俺自身ができる手助けはたかがしれている。
だから甥っ子には俺の分までディーノの手助けをして欲しい……
今日は野球観戦に行ってます! 始めて生で見る野球なので楽しみです!




