合否
次回は水曜日12時です。
窓から差し込む光が唯一の光源である広い部屋、その中央には長いテーブルが置かれ、向かい合うように教員達が座っている。
「うなだれてますね……」
今から始まる教職会議の待ち時間。
一人の若い教員が自分の隣に座る先輩教員に耳打ちをした。
「まぁ無理もないだろう……」
それに対して先輩教員、ディーノの第二試験で試験官を務めた教師が答える。
「あんな負け方をしてしまってわな… 落ち込みもする」
うなだれている教師はディーノが倒した剣士、この学園でも上位に位置する腕前を持った教員だった。
試験が終わって一日たったのだがいままで彼はずっとこの調子なのだ。
「彼、ディーノくんでしたっけ? どうなると思います?」
後輩が先輩に今日の議題でもあるディーノの今後がどうなるのか聞いた。
実は第二試験が終わったディーノだがその場で合否を言い渡されず、また5日後に来るようにと言われてその日は返されたのだ。
それに対しディーノは合否がどうなのかと詰め寄って聞いたのだがこれから決めることだと言われ、納得できないものの帰らざるを得なかった。
そうして試験のあった日から翌日であるこの日、教員全員でディーノをどうするのかを決めるための会議が開かれたのだった。
「それは――」
先輩教師が後輩の質問に答えようとしたその時ちょうどドアが開き、話しが中断された。
入ってきたのは白髪を生やした人の良さそうな老人だった。
白髪を生やしているとは言え、顔は未だ老人というよりかは中年といっても過言ではない年齢に比べれば若々しいとも言える顔立ちした彼は部屋の一番奥に座った。
「学園長もいらっしゃったことですし始めたいと思います」
学年長と言われた老人のすぐ隣の位置に座る女性、前回の教職会議でも司会を務めた女性が立ち上がって部屋にいる全員に声を上げる。
「では学園長、よろしくお願いします」
女性は座ると学園長が柔和な表情で話し始めた。
「ええ …今日皆さんに集まっていただいたのはほかでもない特待生の合否に関してです」
学園長が話し始めると皆がその声を聞きいった。
「前回の教職会議では私は参加できなかったので結果しか知りませんでしたが二人の第一試験の合格者が出たとのことでした」
学園長は皆に確認するように見渡しながら話を続ける。
「昨日そのうちの一人、ディーノ・フォレスタ君の第二試験が行われましたがその内容についてみなさんに意見を出してもらいましょうか」
学園長がそこまで言うと引き継ぐように隣の女性、この学園の教頭に位置する司会の女性が立ち上がった。
「ではまず当事者であった先生に聞くとしましょう お願いします」
教頭がそう言うと先程までうなだれていたディーノの対戦相手でもあった教師が顔を上げ話し始める。
「まず昨日の戦いを見なかった人はいますか? いれば挙手をお願いします」
彼がほかの教師に挙手を求めると誰も手を挙げることはなかった。
「皆さん見ていたようですね」
試験の時にいたギャラリーは彼ら教員であり、試験を見る義務等はないのだが全員、見に来ていたのだった。
「では結果に関しては見ていただいた通り、私の負けで終わりました なにか質問があればどうぞ」
彼は戦いについてあまり自分から語りたくはなく、周りから疑問があれば答えることにした。
そうすると一人の教師が手を挙げ、質問した。
「ではまず最初、杖が鉄を纏い、武器のようになりましたがあれについて何かわかりますか?」
「自分は魔法に詳しくないので詳細はわかりませんがおそらく金属性の魔法で杖に鉄を纏わせて擬似的な武具にしたのでしょう 事実私の剣で防いだ感覚は鉄の武器と何ら変わらないものでした」
彼は思ったまま、感じたままのことを伝えると別の教員が話し始めた。
「おそらくですが彼の杖を確認した際、見た目以上に重かったので杖に金属を仕込んでいたものと思われます それを魔法で操りあのような形にしたのではと…」
ディーノの杖を確認した教員が答え、座る。
そうすると別の教員が質問を始めた。
「彼の…魔法科志望である彼の試験にこの質問はどうかとは思いますが近接戦闘の腕前に関してはどう感じましたか?」
「正直に言いましょう 彼の近接戦闘の技量は三年生の武器科の平均ぐらいでしょう これは負け惜しみでもなんでもありません もう一度彼と武器での近距離戦闘をすれば間違いなく私が勝つでしょう しかしこの意味、皆さんにはよくわかると思いますが」
彼の言ったことは本当に負け惜しみでも何でもない事実だ。
おそらくディーノがもう一度彼と近接戦闘をすれば何もできずに負けてしまうだろう、ただしそれは武器による近接戦闘に関してはだ。
当然彼の言ったことの本当の意味を教師全員が理解していた。
ディーノの近接の腕前はいいとこ三年生の平均より少し上ぐらいだ、それに関しては試験を見ていた全員がおおよそ理解できた。
それだけならディーノは特待生など値しない、しかしディーノの本領は魔法なのだ。
そうなると話は別になる、魔法使いは魔法を使うために溜めがいる。
その溜めを近接戦闘の得意な相手にいかにして作るか、それが見たいがために学園側は第二試験で剣士を対戦相手にしたのだった。
そしてその方法は観戦していた、実際戦っていた教師を含め全員が予想外の方法だった。
その光景を思い出し一人の教員が呟いた。
「まさか彼自身が突っ込んで近接戦を仕掛けるなんて思いもよらなかったよ」
その呟きはここにいる全員の気持ちを代弁したものだった。
彼ら教員はこれまで多くの生徒、冒険者の魔法使いを見てきた。
その多くの魔法使いの対近接の手段は逃げながら自身の得意な魔法で牽制し距離を取ることだった。
中には避けるのがうまく近距離で魔法を発動させ反撃をする猛者もいた。
しかしあくまで彼らの戦闘手段は魔法であり、決して武器による打ち合いなど起こらなかった。
予想外の行動、初見殺しとも言えるがそれは隙を作るには十分であり、二度目の対戦であっても武器のリーチの関係上容易に近づくという選択肢ができなくなる。
「しかしあのような戦い方ベスティア相手では意味はないのでは?」
教師の一人がそう声を上げる。
本来冒険者の相手はベスティアだ、対人対策とも言えるこの対処法では警戒心や驚愕などという物のないベスティア意味がないという意見が出る。
しかしそれはすぐに論破されてしまう。
「ベスティア相手なら近接戦闘の技量が武器科の平均ぐらいあれば十分だ 対人と違って技量が上の相手などいないのだからな」
そう、ベスティアが相手ならば魔法の隙を作るなど気にせずそのまま近接戦闘をすればいいのだ。
武器科の平均はあるということは十分ベスティア相手に近接戦で通用するというほかならない。
「では肝心の魔法はどうですか? 魔法を使った回数が少なすぎて判別が付きにくい」
そういったのは魔法を教える教師だ。
ディーノが魔法を試験で使った回数は三回、最後のディボ・ファイヤー・ボールを含めて四回だ。
「あれでは少し魔法の使える剣士が魔法科で受けたと言ってもおかしくないですよ」
彼の疑問は最もだ、ディーノは魔法科で試験を受けている。
なのに魔法の技量がどれくらいあるかというのは見ているだけではイマイチ分かりづらかったのだ。
「発動速度や位置、術の選択は戦ってる最中は非の打ち所がないと私は思いました どうでしょうか」
対戦していた彼はディーノがいかに上手く魔法を使っていたのかを理解していた。
魔法の回数が少ないのはマイナス点ではない、回数制限のあるこの世界で的確に最小の魔法で勝つというのはむしろプラス評価である。
さらに魔法の発動速度はディーノが魔法を使おうとしてからのラグが少なく、位置も絶妙だった。
選択にしても後から考えても間違いは見つけられなかった。
「そういえば彼は何種類の属性魔法が使えるのですか?」
いままでは誰も気にもとめなかったが一人の教員が声を上げる。
ディーノは分かっているだけでも火、土、金属性を使った他にも使える属性はあるのかという疑問が出てもおかしくはない。
試験官だった教師はディーノがどの属性を使えるのかは知ってはいたがあえて伏せていた。
その理由は……
「――彼は全属性が使えると言っていました」
あまりにも真実か疑わしい上に本当だとしたら衝撃的なことだったからだ。
試験官の言葉は全教員に衝撃を与えた、もちろん学園長も含めてだ。
これがあの戦いの前ならば世迷言と言って切り捨てられていただろう、しかしあの戦いのあとでは信憑性はぐっと高まる。
なにしろあれだけの戦いができるのだ、わざわざ嘘をつく必要はない。
だからこそディーノの実力のわからなかった試験官は伏せていた。
驚く他の教員たちに試験官であった彼は己の見解を述べた。
「さきほど魔法の実力がわからないといった意見が出たが私は問題ない思っている」
「その理由は?」
はっきりと行った試験官に学園長が理由を尋ねる。
「まず一つは戦いの最中のでの魔法技能、皆さんがさきほど話し合ったように彼は十二分な技量を持っていた 次に第一試験での結果です 彼が使える魔法の中で最大のものを使ったがそれは特待生に値すると私は判断した 最後に全属性が使えるということ これの真偽についてはまだわかりませんが少なくとも3つ……いや第一試験で使った魔法は先程上げた属性ではなかったのだから4つは使えるのだからそれだけでも凄いことです 以上の理由から私は魔法技能で問題はないと考えました」
彼の理路整然とした説明はこの場にいる全員に伝わった。
教員全員が黙ったところで学園長が最後の質問をした。
「では最後に彼との対戦、どう思いましたか?」
「……恐ろしい程実戦慣れした子だと思いました あの年であれだけ対人戦ができるというのは異常としか思えない」
対戦した彼の感想は的を得ていた。
この世界、対人というのはかなり特殊な状況だ。
戦争、紛争のないこの世界において人と本気で戦うことなど滅多にないことだ。
もちろん訓練として戦うこともある、しかしベスティアが主な相手なのに人との戦い方を磨くなどあまり意味のないことだ。
なのにディーノは年齢以上に戦い方実践慣れしすぎている。
相手の意表をつき、逃げ場を無くし、どの魔法が効果的なのかを知ってる。
それは普通の人間からしたら恐ろしいとも言えるほどだ。
しかし、これに関しては当然とも言える。
蓮也は地球で普通にアニメや映画を見ていた。
人と人が殺し合うことも珍しくない地球でフィクションの中だが多くの戦いを見てきた。
確かに映像を見ているだけで身につくようなことでもないし当然うろ覚えの記憶だけでは意味を成さない。
しかし、ディーノはシルヴィアという師匠相手に多くの実戦を積んできた。
その中で朧げながらも覚えている地球での魔法を使ったアニメや映画の戦いは参考にはなった。
さらにそれらの戦術は修行の中で磨かれていき、実戦にも使える代物になった。
そういった結果、ディーノはここまで戦えるようになったのだ。
対戦した教師の言葉を聞き、学園長が決断を下した。
「彼、ディーノ・フォレスタ君の特待生入学を認める 異論はありませんね」
その言葉に誰からも文句は出なかった。
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ディーノの合格を認めた彼らだがそれで終わりではなかった。
「ではもうひとりの方はどうでしょうか?」
「彼に関しては第二試験はパスで合格にしました」
「ほう?」
「本来なら対魔法の戦いを見るところなのですが彼は……なので」
「ああなるほど ならばその必要もないというわけですか」
「ええ 第一試験で十分に力量は分かりましたし」
「そうですか しかし、今年は何かが起こりそうですな」
「特待生が二人同時なんで異例中の異例ですよ これ以上何が起こっても驚きませんよ」
「今年の入学式が楽しみですね」
学園長は次の入学式を待ちきれないと心から思った。
感想、待ってます!




