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21.

 窓の向こうに見えるのは、狭い庭だった。だが、色とりどりの植物に溢れ、真冬であるのを忘れさせるほどだ。


 四方を囲むレンガ壁はアイビーに覆われており、茶褐色の地に濃緑色の模様を描いている。その手前では、マホニアが鮮やかな黄色の花穂をまっすぐに伸ばし、ツバキは枝葉の合間に磁器細工のような白い花を飾り付け、さらにヒイラギの赤い実が彩りを添える。イチイの深い緑にフイリアオキの黄色い葉が鮮やかに映え、その陰には白いクリスマスローズがひっそりと花弁を開く。


 見事な景色は、エレナが作り上げた。タウンハウスに来る度に彼女自身が土まみれになって手入れをし、すっかり荒れ果てていた庭を、何年も掛けてここまで美しく変えた。マティアスは見下ろしながら、唇を噛みしめた。


 使用人の知らせで、窓辺から離れて暖炉の前に立つ。やがて案内されてきた客人を、ハルフェン家の当主代理として迎え入れた。


 ユリウスとフィオナの二人が入室し、マティアスはマナー通りに女性にはソファを、次いで男性にアームチェアを勧めた。二人が腰を下ろすのを見届けてから、別のアームチェアに掛ける。


 無難な雑談で繋ぎながら、ティー・テーブルで茶器を用意する様子に気をつけた。そのうちにアッサムの濃厚で甘い香りが部屋に満ちていく。茶葉を蒸らし終えたようで、ペールブルーのティーカップを、執事が運んできた。ティーカップが全員に行き渡ったところでマティアスが頷くと、執事はそのまま部屋の出入口に控えた。


 なにも考えなくても自然に接客をこなせる程度には、マティアスも立場に慣れていた。ただし、茶の用意をするのが妻ではなく、執事であるのは、しばらくは慣れそうになかった。


 一口飲んだところで水を向けると、ユリウスが訪問の目的を述べる。それは、現ロシュタール伯爵の引退と、それに伴いユリウスが当主の座に就くという内容だった。家督と爵位を継承することが決まり、事前の報告として訪れたという。


 縁戚関係にあるので、挨拶に来るのは当たり前のこととはいえ、自分の妻の元婚約者と対面するのは、なんとも居心地が悪い。これまでは、気を遣ったのだろう現伯爵が常に同席していたものだが、今後はこうして会う機会が増えるはずだ。そのうちにはこれにも慣れるのだろうか。マティアスは、視線がカップの中へと落ちそうになるのを、なんとか堪えた。


 ユリウスの態度は堂々としていて、精悍な顔つきは若い頃と変わらない。言葉の端々に、次期当主としての自覚と責任感が滲み出ている。


 一方の自分は他者から見ればどう映っているのだろうか、という思いがよぎる。それを押しやって、マティアスは笑顔を浮かべ、丁寧に祝意を述べた。


 用件を話し終えても、なぜかユリウスは立ち上がろうとしなかった。自分たちの関係性からすれば意外であると感じながらも、マティアスは紅茶を入れ直すように執事に合図する。


 執事がスロップ・ボウルにカップの残りを捨て、熱い紅茶を注いで回る。ユリウスとフィオナは同時に手を伸ばし、オケージョナル・テーブルからソーサーを持ち上げた。マティアスもそれに倣い、カップを唇に運ぶ。


 湯気と共に香りが立ち上り、その紅茶がエレナの好んだ銘柄であるのを思い出した。ミルクをたっぷりと、砂糖は控えめに、さらにナッツクッキーを添えて……。


 来客をもてなしている最中だというのに、マティアスは黙り込んでしまった。


 少しの間、部屋に静寂が降りた。そのときユリウスに名を呼ばれ、マティアスはハッとした。どう失礼を詫びたものかと慌てて顔を上げると、相手が気遣わしげな面持ちでこちらを見ていた。


「先日、ミヒャエルの葬儀にいらしたそうですね」


 マティアスは動揺し、じっと相手を見つめ返した。思ってもいなかった名前が挙がり、戸惑うばかりだ。


「彼のことを、ご存知だったのですか?」


 マティアスは慎重に言葉を選びながら問い返した。ユリウスは視線を逸らすことなく頷いた。


「ええ。何度か会う機会がありました。彼の出自や、これまでの事情についても、すべて聞いております」


 ユリウスからフィオナへと視線を移した。彼女もまた、まっすぐに見つめ返してきた。その目には確かに悲しみが浮かんでいる。マティアスは口を開きかけ、だがなんと返せばいいのかわからなくなった。


「あの子がなにを思ってあなたを襲ったのか、私にもわかりません。申し訳ないと思っております。ですが、本当はとても優しい良い子なんです。私も姉も、とても可愛がっていました」

「エレナも、ですか?」


 問いかけると、フィオナが微かに頬を緩めた。懐かしさと悲しさが入り交じった、なんとも言えない表情になる。


「ええ。私たちは、そうですね、月に一度くらい会っていました。なかなか三人揃うのは難しかったのですけれど、どちらかが必ずあの子の元を訪れていました」


 嫡子であるエレナとフィオナが、庶子のミヒャエルを可愛がっていたという状況にどうにも納得がいかない。だが少なくとも、エレナがミヒャエルと頻繁に会っていたのは、仲の良い姉と弟だったからだ、と理解した。


「私はエレナからなにも聞いていないのです。もちろん私は他家の人間ですから、知るべきではないとも思います。ですが、詳しく教えていただくわけにはいかないでしょうか?」


 ロシュタール家に入ったユリウスとは立場が違う。それはよくわかっていたが、マティアスはこの機を逃したくないと強く思った。

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