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蒸気の街 ②





 低体温症に近い症状を起こしているスミレを一先ず病院へ連れて行き医者に見せる事にしたアリスとエミリア。当然と言うべきか警備兵も何が起きたのか事情聴取をするべく一緒に着いてきた為、病院側は何事かと少しざわめく状態になってしまう。


 医者曰く頭部を含めた外傷は数日もすれば治癒し、今日一日体を温め休む事で低体温症も治るだろうとの事で、二人はスミレを医者に託し警備兵の元へ行き事情聴取を始めた。内容としては何があったのかと言うだけなのだが、問題としては街中で多くの人が居る中でのエミリアの発砲。しかし誘拐監禁を行った者を逃がさぬ様撃ったと言う点と、今回の犯人である水道屋に余罪があった事も発覚した為、正当な判断として処理してもらえる事となった。


 銃の取り扱いについて説明すると、この世界では銃の所持、使用が大抵の地域で許可されているのだが、街や地域によっては発砲の制限が存在する。この街では蒸気パイプが剥き出しで通っている場所が殆どである為人が多く住む地域やパイプが密集している地域での発砲は許可されていない。因みに銃の種類についてだが、一般人が所持出来るのはリボルバー式拳銃のみで、オートマチックやライフルの類は全面的に禁止されており、発見した場合は最寄りの市区町村の兵士に渡さなくてはならない。それを無視し所持した者は老若男女問わず処刑の対象となる。元より財宝の銃は九割以上がリボルバーである為、それ以外の銃を手に入れる事すら困難ではある。




「これからどうする?まともに動かないけど。」


「そこよね。私達の義肢はスミレちゃんじゃないと直せないし・・・」


 未だに関節の動きがおかしい二人の義肢。今の状態で再び揉め事に巻き込まれれば対処するのも一苦労と言うもの。取り合えずは夕方に近い為、宿を探す事にした。



「今更だけどアリスの義肢っていつから使ってるの?」


 義肢を取り外し水分を拭きとっている時にエミリアはふと疑問を浮かべアリスへ尋ねる。


「俺の記憶の限りじゃ最初からだな。前に話したと思うけどスミレと出会う前の記憶はないんだ。」











 明かりがポツポツとしか存在しない薄暗い街。まるで常に分厚い雲が覆っているかのような雰囲気が漂う中、黒いローブに身を包んだ者が大きな紙袋を抱え街中から離れた家へと入り込む。


「ただいまアリス。」


 その者は紙袋を近くの机に置くと声を掛ける。その先には金色の髪をツインテールにし、白いワンピースに身を包んだ美しい少女の姿をした存在。その者には四肢が存在せず、代わりに義肢が取り付けられているのだが微動だにしない。そんなアリスと呼ばれた者は常に目を閉じており生きているのかさえ怪しい程小さな呼吸だけをしていた。


「今日も綺麗ねアリス。」


 そう言って黒いローブを来た者はアリスの頬を撫で笑顔を見せる。その後「ご飯にするね。」とキッチンへ向かおうと立ち上がった瞬間、少しばかり違和感を抱きアリスの顔をもう一度見直す。すると動く事の無かったアリスの目が少しばかり開いている事に気づく。


「アリス!目が覚めたの?」


 だがそんな問いに答える事はない。しかしアリスが目覚めたと喜びローブを着た者はローブを脱ぎ自分の顔をアリスに見せながら話し掛ける。


「私はスミレ。私があなたを蘇らせたの。」












「え?って言う事はアリスって植物人間だったの?」 


「言い方が悪いな。正確に言うと俺はカプセルに保管されてたんだってよ。そのカプセルには『被検体A』としか書かれてなかったからアリスって名前を付けたらしい。んで生命維持装置って言うのか?その類無しでも死なないからってんであれやこれやで蘇らせようとしてたらしい。」


「白いワンピースで?」


「それはあいつの趣味。まぁそれから程なしくして動けるようになったらしい。」











「そう、上手だよアリス。ゆっくりで良いからね。そ~っと口へ運んで。」


 スミレはスプーンで豆を掬ったアリスへ優しく話し掛け、アリスもそれに答えるかのように右手を動かしていた。しかし、口へ運ぶ途中豆を落としてしまい上手くいかない。若しかして自分と同じく左利きなのではと左手にスプーンを持たせても結果は同じであった。


 そんな中スミレの家の扉が乱暴にノックされ何事だとドアスコープを覗き込んだスミレはすぐさま扉から離れた。すると間髪入れず扉は蹴破られ逃げ遅れたスミレの背中へと直撃する。しかしスミレは急いで這い出しアリスを庇う様に立ちふさがった。


「ん?ここには若い男しかいないと聞いたが連れ込みでもしたのか。まぁいい、悪いがお嬢ちゃんそこのカプセルに入ってた奴を知らないか?」


 如何にもマフィアと言うような風貌をした男達がスミレの家に入り込むとカプセルの中身が無い事を確認しスミレへと問いかける。勿論若い男と言うのはスミレの事で、カプセルの中身はアリスなのだが見た目が美少女な二人がソレだと言う事は理解していない。


「ん?そいつは人形・・・?いや虚ろなだけか。」


 そう言って男はアリスへ手を伸ばすのだが、触るなと手を弾くスミレ。この行動が女だからと見逃していた気持ちを白紙にしたらしく、男はスミレの胸倉を掴むとそのまま逆の手でスミレの腹へと拳をめり込ませる。更には顔へ一発拳をお見舞いし掴んでいた胸倉からも手を離した。


 そんな光景を目の当たりにしたアリスは倒れ込みそうになったスミレを両手でキャッチし抱きかかえるようにそっと床に寝かせた。


「何だ動けるのか?まぁお前でも良い、そのカプセルの中身・・・」


 男がそう言いかけた瞬間、男の顔面へアリスの左脚が直撃する。何が起きたのか分からない部下らしき男達だが、それを理解する前にアリスの脚や拳の餌食となる。


 スプーンすらまともに扱えなかったアリスが急に動き出しあっという間に一網打尽と言う信じがたい光景を前に呆然としていたスミレだが、倒した男の一人がナイフを取り出しながら立ち上がろうとしている事に気づきアリスを庇おうと前へ出た。しかしアリスはスミレの行動から逆に自分に危機が及んでいる事に気づきスミレの目線を読み間一髪の所で回避に成功。だがそのままではナイフがスミレに当たってしまう為、アリスはナイフを持った手を掴むと逆の手で男の肘を殴打し無理矢理関節を曲げさせ、男が握った状態でそのままナイフを男の肩に突き刺した後、肘で後頭部を強打。これにより襲って来た輩は全員気を失った状態となった。


「大丈夫アリス?!」


 スミレはそう言ってアリスに傷が無いかと全身を調べ始めるのだが、アリスは「何も食らってない。」と返答する。するとスミレはその声にも反応しアリスを抱きしめた。


「私の事も呼べなかったのに喋れるようになったんだね!」


「喋れるように・・・って言うかここは?」


 電池を交換した電子機器の如く急に動き出し流暢に会話を続けるアリスはスミレへと質問するのだが、そもそも自分が誰なのかも分かっておらず状況を把握できないでいた。


 だが輩が家へ来た以上、更なる追手が来ると考えたスミレは「説明は後、そこの机の上の物をこの本に入れて。」と一冊の本をアリスに手渡し自分は奥の部屋へと走って行った。『本に入れる』と言う言葉の意味も理解できなかったのだが、冗談半分で本を開き近くにあったネジを落とすとそのまま本を通過するかのように消えた為、よく分からないが本の中に入る事だけは分かり次々にしまっていく。


 その間スミレは義肢制作室の品物を片っ端から本にしまい、見た目よりも遥かに入る魔道具の鞄を棚から取り出すと手あたり次第押し込み始めた。


「アリス、ここを出るよ。靴はコレを履いて。」


 奥の部屋から出て来たスミレはアリスに靴を手渡すと代わりに本を受け取り鞄へとしまう。自身も靴を履き終わるとアリスの手を引いて玄関の扉も締めず走り出した。




「何だこのザマは。」


 スミレ達が家を出て数分後、別の男がスミレの家へやって来ては中のあり様を見て愚痴を漏らす。すると気絶していた男が一人目を覚まし状況を伝える。


「男がここにカプセルを持ち込んだと聞いた。だが男は・・・」


「ンな事は俺だって知ってんだよ。その男どころかカプセルの中に居た男も取り逃がしたんだろうがお前は。」


「取り逃したと言うよりは居なかったと言うか・・・」


 起き上がった男が喋る事が良い訳にしか聞こえなかったのか、後から入って来た男は銃を取り出し両脚へ発砲。更には魔石が入った球を取り出すと衝撃を与えスミレ家の中へと通り投げた。


「お前達は用無しだ。」


 暫くすると球は光を放ちながら温度を上昇させ警告音の様な音を立てた後爆発。更にはそのまま炎上しスミレの家はあっという間に火に包まれた。


「逃げた奴らを追え、男二人だ。」









 街を出て数十分後、右足を引きずる様な歩き方をするアリスを見てスミレは義肢が故障した事を察し近くの木陰に座らせ検査をしながら事の顛末を話し始める。


 スミレ曰く、アリスは街の近くで見つかったカプセルに入っていた何かしら被検体で、そのまま放置するのも気味が悪いと思ったが発見した街の人は『あいつなら物好きだから』と言う理由でスミレへ高値で売りつけた。一方スミレもその被検体の美しさと胸には魔導石が埋め込まれていた事から生きている事に気づき、自分の友達にしようと研究を始めた。


 義肢作成で生計を立てていたスミレにとってカプセルの仕組みを理解するのには長い時間を要し、カプセルから出しても生命を維持出来る様になるまでは数年掛かった。


 非常に整った顔から自信の趣味である『可愛い物』にする為、義肢の四肢を作成し、髪を結ったり服を着せたりと着せ替え人形的な扱いをしている内に自分も可愛くなりたいと考えたスミレは女装を始めた。見た目こそアリスの方が年上に見えるのだが、スミレの脳内ではアリスを妹として扱っていたらしい。


「妹・・・?待て、俺は男だぞ?」


「知ってるよ?だった私が全部のお世話してたんだもん。」


「全部って。まぁいい、通りで動きにくい服だと思ったら女物だったのか。なんか他の服にしてくれよ。」


「だ~め。アリスは可愛いんだから可愛くないと。」


 埒が明かない為義肢を直して貰ったら一人何処かへ行こうと考えたアリスだが、それを見越してかスミレが先に忠告をする。


「因みに、私の義肢制作の腕は折り紙付きでね。自分の意思通りに動か設のはこの辺りじゃ私だけ。私しかアリスの義肢は作れないからね。」


 そう言われ自身の四肢が無い事を改めて思い出し、動きだけでなく感覚さえも備わっている超高性能な義肢である事を実感したアリスはスミレが居なければ自分は動く事すら出来なくなるかもしれないと思い取り合えず逃げる事だけは止める事にした。


 暫くして義肢の修理を終えたスミレ達の元に見るからに怪しい連中が通りかかり声を掛けて来る。


「この辺りで若い男二人を見なかったか?」


「いいえ、私達は隣街へ向かう際中だけど何も見てないよ。」


 自分達を襲った連中と同業者である事に気づいたスミレは咄嗟に嘘をついて誤魔化すのだが、男達も「逃げたのは男二人であって女二人じゃない。」とアリス達には気づいていない様子で「まだ近くに居る筈だ。」と二人を無視して捜索を始め出した。


「女の姿で良かったねアリス。もし男の恰好だったら見つかってたかもよ。」












「成程ねぇ。だから二人は女装したままだったんだ。」


「俺はあいつの趣味に付き合わされてるだけだ。寧ろ男の恰好をしてる時に襲ってきた奴を返り討ちにすれば全部解決するんだからな。」


「へぇ。」


「・・・まぁ、この恰好をしなけりゃ義肢も直してもらえないし。仕方なく一緒に居るだけだ。」


 何やら言いた気なにやけた顔をしながら自分を見るエミリアにアリスは好きでスミレと居る訳でないと否定。だがエミリアはそれが本心出ない事を知っている為にやけ顔が戻らないでいた。


「ほら、締まりの無い顔してないで今日はもう寝るぞ。」


「珍しい、ご飯も食べてないのに。」


 照れ隠しからかベッドに潜り込んだアリスに対し皮肉を言うエミリア。だが暫くして大事な事を思い出しアリスを叩き起こす。


「アリス!さっきまで下水みたいな所に居たんだからお風呂に入りなさい!」






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