蒸気の街 ③
翌日、出店の豆や肉を朝食としながらスミレの居る病院へ向かった二人だが、到着と同時に朝早くから病院を抜け出て何処かへ行ってしまったと医者から聞きスミレの捜索を始める事になる。しかし二人にはスミレが行く所なぞ簡単に検討出来る為、街中の工房、鍛冶場を覗き込んでみればすぐさま発見する事が出来た。
「朝っぱらから何してんだ。」
「あ、おはようアリス、エミ。いやぁ作業場貸してくれるのここしか無くてねぇ。」
何をしていると言う質問の答えになっていない返答をするスミレに対し一発どつきでも入れてやろうかと考えたアリスだが、まず最初に確認しなければいけないのは彼女の様態である為、一度堪えて改めて質問をぶつける。
「怪我はもう良いのか?あと低体温・・・なんとかって奴も。」
「頭の傷なら問題無し、私は若いからね。低体温症も寝てれば治ったから。」
「スミレちゃん?『私は』って事は、私は若くないとでも?」
余計な一言を付けてしまった為エミリアの何かに触れたらしく殺気を感じ取ったスミレは素早く土下座の体制をしながら「私とエミはって意味です!」と遜る。
「まぁ俺は自分の歳も知らないしな。それより今作ってるのは俺の義肢か?」
アリスはスミレが土下座の為離れた机の上に義肢が乗っている事に気づき問えば「そうだよ。」と立ち上がり現在の状況を説明し始めた。
「この地域ではハニカム構造の技術が高くてこれなら新しいフレームにも使えると思ったの。例えばここの骨格フレームなんだけど、従来のファイバー入りシャフトから・・・」
「俺朝飯食ってくる。」
話が長くなると悟ったアリスは先程の分では食い足りないのもあり、スミレの話を遮り工房を出ようと出入り口へ向かい始める。そんなアリスに対し「私は銃の整備をしたいから。」とエミリアは財布を手渡しながらここに残る事を伝えた。
「え?やってない?」
「蒸気窯と水道が調子悪くてね。何でも昨日水漏れがあったらしく交換作業をしてるとかで、悪いね嬢ちゃん。」
近くの食堂へ向かうが調理不可との事で入店を拒否されるアリス。だが、その内容には心当たりがあり、昨日の水道管と言えばスミレが破壊したもの。翌々考えてみるとスミレはそのまま入院し、その後の処理は一切行っていない。つまり修理するのはこのパイプまみれの街の配管工と言う事になる。
これには流石に罪悪感を抱いたアリスは技術力こそないが自分でも何か出来る事がないかと昨日の現場へと赴く。するとそこには蒸気式水中ポンプを使用し排水をしている水道局と作業中の配管工の姿があった。
アリスはその中で指示を出している人物が責任者と思い声を掛ける事に。
「悪い、この騒ぎで俺の身内が迷惑をかけた。何か手伝える事は無いか?こう見えても身軽だし力もあるぞ。」
「ん?昨日救助されたって子の事か?別にあんた等がどうこうって話じゃねぇよ。そもそもコレが俺達の仕事だからな。」
当たり前と言えば当たり前。配管の仕事を配管工が行うのは当然の事で、行き成り現れた赤の他人に作業を任せる程デタラメな業者ではない。しかしその時、二人の頭上十メートル程の所から繋げる配管の径を間違えたので自分が下りるまでに指定した長さに切って置くようにと言う声が聞こえる。すると指示を受けたであろうアリス達から少し離れた場所に居る男が「分かった。」とパイプの長さを図り線を引き始めた。
これはチャンスと言わんばかりにアリスは「そこに居ろ!」と声を上げると、パイプを切断しようとしている作業員の前まで移動し、パイプに描かれた線を確認すると双剣を引き抜き正確に切断する。その後は剣を鞘に納め、近くにあるパイプや建物の段差を利用しぴょんぴょんと先程指示した男がいる場所までパイプを届けると下にいる責任者へ声を掛ける。
「どうだ?少しは役に立つか?早く直せば皆助かるだろ。」
正確に切断する腕と軽い足取りに呆気に取られた責任者は少しの沈黙の後「お、おぅ役に立ったぞ。」と少しばかり上ずんだ声で返答すると同時にアリスが居れば作業が早く終わる事を実感し、彼女を採用する事を決めた。
「よしジャック、元栓の交換に彼女を連れて上層へ行ってくれ。」
責任者は先程パイプに線を引いていた男ジャックに指示すると、その旨を上にいるアリスへ大声で伝え、それを聞いたアリスは来た時と同じ様な足取りで責任者の元へと戻って来る。
「元栓の近くにの資材置き場に荷物だけは運んであるからジャックの指示で切ってくれ。あとこの辺りは前々から人斬りが出るって話もあるから危なくなったらジャックの後ろにでも隠れるんだ。こう見えてコイツはそこそこ強ぇから。」
数分後ジャックがアリスについて来させたのは現場から数十メートル離れ、更に階段や坂を登りに登った場所。それでも歩みを続けるが明らかに今回の件と関係が無い様な場所に違和感を抱いたアリスはジャックへ質問をする。
「こっちであってるのか?」
「大丈夫、この辺りは配管が複雑になってるからバルブ一つ交換するにも大掛かりになる事もあるんだ。それに人斬りが出て来るかもしれないからこうやって人目に付きやすい道を通った方が良い。」
自分を心配してわざと遠回りする道を選んでいる様で取り合えず安心するアリスは自分が通った道も分からなくなってきた頃、資材が置かれたテニスコート程の広さの場所へ到着する。
「ここだよ。あとはそこのバルブをパイプごと交換すればいい。長さは・・・こんな所かな。」
そう言ってジャックはメジャーで長さを図り線を引くとアリスが切りやすいように少し離れた場所へ下がる。それに気づいたアリスは線通りにパイプを切断すると次は何をすれば良いのかと尋ねる。その作業に少しばかりうっとりとした表情を見せたジャックはそこのバルブを交換すると指を指した。
指定された場所へ切ったパイプを持っていくアリスだが、そのパイプは現在元栓だと言われているバルブに繋がっている配管とは倍以上の径が違う為本当に合っているのかと尋ねると、ジャックは少し笑みを受けながら口を開く。
「君達が昨日潰してくれた業者。結構良い金づるだったんだよ?うちの持ってる仕事を横流ししたり情報を買ってくれたりね。なのに何で潰しちゃうのかな?」
明らかに様子がおかしいジャックに何があったのかと近づこうとした瞬間、ジャックは懐に手を入れると銃を取り出しアリスへ向かって発砲する。彼が取り出した物が銃である事に気づいたアリスは咄嗟に移動した為弾は当たらなかったが、ジャックはそのまま照準をアリスに定め二発三発と発射していく。
銃口が向く方向と逆へ動きながら剣を引き抜き応戦しようとするが、銃の腕はエミリアと同等かそれ以上の様で逆に間合いが広がってしまう。そんな中、気づけばアリスはフェンスの無い足場から伸びる直径七十センチ程の配管の上へ誘われている事に気づくのだが、時既に遅し、アリスは避けた際に右脚がパイプの上へ乗っており正面か背後以外逃げる場所が無い状態になってしまう。
ならば飛びながら近づくか。その前に撃たれる。では下に飛び降りるか。下には数本配管が伸びているだけで地上三十メールはある高さ故落ちた時の衝撃を今の義肢で耐えれるはずもない。そんな中放たれた一発の銃弾が現在唯一の支えとなっている右脚に直撃しバランスを崩してしまったアリスは咄嗟に右腕を伸ばし足場にしていたパイプにしがみ付くのだが、ジャックはそんな彼女の隙を見逃すはずも無く右肘の関節部分に銃弾を撃ち込む。
全体重を支えていた右腕の義肢はアリスの支えようとしている力と重みに耐えきれなくなり明らかに何かが壊れる音と共に前腕と上腕が離れてしまった。落下する中、外れてしまった右腕と剣を回収しようと藻掻くアリスだが途中飛び出ているパイプに体を強打し、更には別の配管に頭部をぶつける等して少しだけ広い裏路地の地面へ叩きつけられた。
一方でジャックは縁から落ちたアリスを確認するのだが、銃声を聞きつけた人々が集まり出した為、アリスへとどめを刺す事無く去るしかなか無く悔しそうな顔と同時に湧き上がる幸福な感情から不気味な笑みを浮かべる。
朧気な映像、上下する身体、荒い息遣い。これらが何を意味するのか分からず脳の処理が追い付かないアリスは自分が何者かに運ばれている事に気づくまで十分近くの時間を要した。
「お?気が付いたか。安心しろもうすぐ医者に会えるからそれまでの辛抱だ。」
アリスが声を漏らすと同時に目が開いた事に気づいたらしく声を掛ける男が目の前に居た。それを理解したアリスは目を見開き自分の状況を把握すべく顔を動かし始める。どうやらこの男に抱きかかえられながら移動しているらしい。
「動くな、頭を打ってるんだ。一応押さえちゃいるが血も止まってねぇ。」
そう言われて初めて自分が怪我をしている事に気づき激痛に悶え始めるアリス。気を失っていれば痛みに気づかないと言うのは皮肉な物である。しかしアリスは右手で自分の頭を押さえようとした時、右腕が肘までしかない事から慌てて体を動かし左手だけで自分の後ろ腰を確かめようとする。そんな彼女が何かを探していると気づいた男は剣の事だろうと思い伝える。
「剣なら回収して鞘に納めてある。」
「二本とも?」
「二本?そう言えばお前さん鞘は二つだが剣は一本しか無かったぞ。」
それを聞いた瞬間にアリスは下せと言わんばかりに暴れ出すのだが、男から「命の方を大切にしろ!」と怒鳴られ大人しくする事に。
病院は昨日スミレが入院した場所と同じで、まさかこんなに早くここへ戻るとは思ってもみなかったアリスは、緊急搬送からベッドへ寝かされ色々な装置を体へ取り付けられる。どうやら血圧計や脈拍計の類の様なのだがどれもアナログなメーターが存在している。が、勿論どれもこれも反応せずずっとゼロを指したままである。それもそのはず、アリスの四肢は全て義肢である為腕や脚に取り付けても反応する訳も無く医者と看護師達は驚きの表情をしている。
「四肢全部が義肢なのか・・・。」
「意識は確りしてる。取り合えず頭の血だけ止めてくれればそれで良い。早くしてくれ。」
呆然としていた医者に出血の処置だけを指定するアリスにややしどろもどろになりつつも頭部の様子を見始め、塗り薬の様な物を塗ったり右の額部分にはガーゼを張り付けたりと処置が素早く行われ、あっという間に止血が完了した。
「悪い、金は後でスミレの分と一緒に払うから待っててくれ。」
処置が終わった事を知るとアリスはそう言って立ち上がり病院を逃げる様に出て行く。血に塗れたツインテールの髪を靡かせ、剥き出しになった義肢を見せる事も厭わず右脚を引きずりながら一心不乱に向かった先は二人が居る工房。
「悪いスミレ!剣を無くした!それと義肢を交換してくれ!」
工房に入るなり叫ぶアリスを見てギョっとしたのは従業員だけでなくスミレとエミリアも同じ。違うのは真っ先に駆け寄り怪我の具合を確かめる所である。
「何があったの?」
「配管の手伝いをしてたら撃たれたんだ。その際落ちて右腕も取れちまった。」
とてつもなく簡略した結果話が少し違うのだが、何を言いたいかは通じた為、納得しつつもアリスの四肢を全て交換する二人。なお、この四肢は以前からアリスが使っている物で、今使用して居る物より耐久性が桁違いに高い。先程とは違い馴染んでいる四肢に全く問題が無い事を確かめたアリスは剣を探しに行くと工房を飛び出すのだが、二人もアリスを追いかけながら「あとで来るから!」と工房の者に叫ぶ。
物の数分で落下したと思われる場所へ到着した三人は剣を誰かが見つけなかったか聞き込みまわるのだが、目撃者の全員はアリスが心配で周りを見ていなかったと返答する。落ちた場所も人通りが多いとは言えない裏路地。若しかしたら何処かの配管に引っかかっているかもしれないと見上げたりしているとエミリアが二人へ質問を始めた。
「確かにアリスをこんな目に合わせたのは許せないけど、何で剣をそこまで血眼になって探すの?」
「アリスの剣は特別なの。二つ揃って初めて意味があるし・・・それに私達にとってもあの剣は・・・。」
「喋ってないで探せ!俺は上見て来る。」
問いに答えるスミレの言葉を遮る様に怒号を放ったアリスは自分が襲われたであろう場所へ体を強打したであろう足場や配管を伝い数メートルのジャンプを繰り返しつつ最短距離で向かい始めた。それに連れられて二人も別ルートから追いかけるのだがアリスの速度には到底及ばず、到着には数分のズレが発生する。
一方で現場へ到着したアリスは先程落ちる瞬間まで乗っていたパイプが目に入った。自分がもっと用心していればと後悔していると背後から殺気を感じ振り向きながら剣を引き抜いた。すると目に入って来たのは白銀色の刃。すぐさま剣でいなすと今度はパイプとは違う方向へ回避し距離を取る。するとそこに居たのは忘れもしない男ジャックであった。
「しぶといね君も。まぁでもこの剣で試し切りがしたかったし丁度良い。」
そう言いつつ見せびらかす様に動かしている右手に握られてたその剣は鍔の部分に青い魔石が埋め込まれた紛れも無くアリスの双剣の片割れである。
「そうか、大体分かったぞ。さっき聞いてた人斬りってのはお前の事か。」
「どうだろうね。美しい剣があれば欲しくなるだろ?そして剣は人を斬る為にある。ただそれだけだ。」
「俺を襲ったのは剣の為か?」
「そうだね。君がこんな美しい剣を見せるからだよ。」
口調まで異なるジャックに一連の人斬りの正体である事を知ったアリスは左手一本の剣のみで戦うしかなく、ある種慣れていない状態での戦闘となる。
先に動いたのはジャック。一気に距離を詰め突きを放つのだがアリスは側宙で回避しつつ伸ばしたジャックの右腕を斬ろうとするが、ジャックは右手首の捻りだけで剣を逆手にし剣の側面部でアリスの剣をガード。そのまま逆手でアリスへ斬りかかるが、今度はアリスが手首を素早く返し剣をいなす。
攻めては守りを繰り返していると、先程パイプを取り出した資材置き場まで来ており、戦いながらそれらの資材も巻き込んで切り裂きつつ手を止める事の無い二人。更には周りのワイヤーや添え木までも切る事で辺り一面に資材が転がり始める。そんな時現場へ到着したスミレとエミリアだが、素早い近距離での攻防に撃つ事が出来ないエミリアは銃を握りしめる事しか出来ずに居た。
だがあまりにも周りを巻き込みすぎたのか配管が裂け蒸気や水が出始めた頃、別の圧力不足なのか辺りの建物が唸り声の様な音を立て始め、気づけば直径一メートル以上はある配管が外れ今にも倒れそうにゆらゆらと揺れ始める。それに気づいたジャックは配管で潰そうとでも考えたのか、揺れている配管に剣を打ち込むのだが切れる事は無く逆に剣が弾かれてしまう。
「何故だ?この剣ならこれ位切れる筈だろ・・・」
「馬鹿かお前、その剣を見て見ろ。そんな刃で切れるとでも思ってんのか?」
アリスにそう言われ改めて剣を見てみると刃は刃毀れと言うには優しいレベルで欠けまくっており、鋸と言った方が正しい程。自分がこうならば相手はどうなのだとアリスの持って居る剣を見て見ればこちらも同様にボロボロになっている。何でも斬れる最強の剣と思っていた物が見すぼらしい姿になり絶望を露わにするジャックなのだが、せめてアリスだけでもと前へ踏み込む。この時二人は先程の衝撃で配管が自分達に向かってゆっくりと倒れ始めている事に気づいていなかった。
「アリス!上!」
そう言われ始めて危険である事に気づいたアリスに対し隙が生まれたと好機を逃さぬ様斬りかかろうとするジャックだが、彼は逆に下を見なければならなかった。何故ならば転がったパイプに脚を取られてしまうからだ。
足元には転倒したジャック。頭上には倒れて来る配管。この状態を打破する方法は何かないのか脳をフル回転させ考えたアリスはジャックが転んだ際に剣を地面へ突き刺し手放している事に気づき、右手でその剣を引き抜くとジャンプし剣を構える。すると双剣の刃は青白い光を放ち、アリスはその状態のまま配管へ剣を振るう。
配管の落ちる地響きと轟音が辺り一面に鳴り響き、二人がどうなったのかと確認するスミレとエミリア。彼女達の目には真っ二つになった配管の間で刃毀れ一つない双剣を両手に握って立っているアリスと腰が抜けて動けなくなったであろうジャックの姿が映った。
「悪いが俺に人を殺す趣味は無ぇ。斬るのは守る為に行うのが俺の信念、逆に言えば守る為なら人であろうと斬る。」
アリスは剣をジャックの喉元に突き付けながら言うのだが戦意喪失状態のジャックには馬の耳に念仏である。
放心状態にあるジャックに警告はしたぞと背を向けスミレとエミリアの元へ歩いて戻るアリスは剣を納めながら「見つかったぞ。」と右手で柄を叩いてアピールをし、二人も一件落着だと胸を撫で下ろし武器を納める。
「で、あいつどうするの?って言うか誰?」
戻って来たアリスへ問うスミレ。アリスは人の名前を覚えるのが苦手なのか少しの間考えて口を開く。
「たしかジャックとか言ってた気がする。前にもどっかで聞いたような名前だと思うんだが。」
「どっかでって・・・ジャックって言えば・・・!」
ジャックと言う名前の話をしようとしたエミリアは戦意喪失した筈のジャックが銃を取り出している事に気づき咄嗟に自分も収めてしまった銃を取り出そうとだが、彼女の眼鏡には自分が撃たれる瞬間が映り込んだ為、体を無理矢理捻って回避する事に成功する。が、二発目が来ると予測し転がり込むように高さの低い資材の陰に隠れるエミリア。同時にアリスもスミレを守る為エミリアが回避したのと逆の方向にあった横向きに立てかけられた鉄板の裏に隠れる事に。この状態ならば銃弾は貫通しない為安全ではあるが、問題としては寝そべりに近い状態でないと隠れられない事。この状態では攻撃を仕掛けるのはほぼ不可能である。
「エミ!撃てないか!?」
「この姿勢じゃ無理よ!顔を出せば当てて来るわよアイツ!」
だが、何か方法は無いのかと辺りを見渡していると威嚇射撃らしき次弾が違う角度から撃たれ、移動している事に気づいたエミリアは自分が対処しなければ全員やられると一瞬だけ顔と銃を出し牽制射撃を行うが、目の前の資材にジャックの弾丸が命中しその破片を顔に浴び戻る。
「このままじゃエミもやられる・・・。アリス、義肢を外して!」
何かに気づいたスミレはアリスに今の体勢のまま義肢を外すように指示する。言われたアリスは躊躇すること無く両脚と左腕を外すとスミレからの指示を仰ぐ。
「共鳴不足だけどこれしかないの。お願いねアリス。」
そう言ってスミレは本から別の義肢を出し次々にアリスへ装着し、最後に三日前に手に入れた魔導石を取り出した事でアリス自身も何をするのかを理解し胸を露出させ自身の魔導石を引き抜いた。その瞬間目の前が真っ暗になるのだが、間髪入れずスミレが魔導石をアリスの胸へ装着する事で意識が復活する。
新しく装着された魔導石の出力を極限まで引き出す為に今朝作り出した新しい義肢を装着したアリスは鉄板の裏から飛び出すと四つん這いのまま犬の様に飛び跳ねては壁に着地し再び別方向へ飛び始める。
スミレの言う『共鳴』とは魔導石と義肢をシンクロさせる工程の事で、共鳴が済んでいる義肢とそうでない義肢の場合自分の意思通りに動くかどうかだけでなく、思い通りの力を制御出来るかと言うのもある。今回の場合、最大出力に近い状態で使用され、余りの速度にアリスの意識が付いていけず思った通りの場所に移動する事が出来ずにいる。しかし、そんなアリスへ銃口を向ければエミリアに撃たれるとジャックもまともに動けないと言う両者硬直状態になるのだが、動けるアリスだけは唯一この状況を変える事の出来る存在。
上下左右に飛び回り血液の流れや揺れる脳から油断すれば意識を失いそうになる中、ついにアリスは自分の進行方向とジャックが辛うじて一直線に並ぶ。最初で最後のチャンスだと飛びながら双剣を引き抜くアリス。そんなアリスに気づき銃を向けるジャックだが、構えた右腕はエミリアの射撃により撃ち抜かれ、左手で懐に隠していた短剣を取り出そうとするのだが先にアリスの剣が到着する。
横をすり抜けながら壁に直撃するアリスに対しジャックはその場で立ち尽くしていた。そんな状況下でとどめをさそうと照準を合わせ直すエミリアだが彼の様子がおかしい事に気づき引き金に掛けた指を止める。するとジャックは左わき腹と左手上腕から激しい出血をしその場に倒れた。
スミレが近づいて確認すると左側の胸と腰の間部分を十五センチ程、左腕上腕部分を五センチ程の深さを持つ斬り傷を発見する。これにより両腕だけでなく上半身もまともに動かせなくなったジャックはその場で血だまりを作る事しか出来ず死を待つだけであった。
エミリアがジャックの銃を回収している間にスミレはアリスに近づき意識の確認を始めていた。そんな中アリスは「交換。」とだけ呟いた為、スミレは倒れたままのアリスの魔導石と義肢を元の物に交換すると、彼女は次第に呼吸を整え会話が出来るまで回復する。
度重なる轟音や銃声から人が集まり出し、血まみれのジャックを始め四人の姿を見て通報でもあったのか警備兵までもが到着した。
「またお前達か!今度は何だ!」
どうやら昨日と同じ警備兵らしく、現場を見た彼はジャックを病院へ連れて行く事を別の兵士に命令し、三人の事情聴取をする為庁舎に来るように命じようとするのだが、同じく血の跡だらけのアリスを見てまずは全員病院へ行くように促した。
「兵士を一人付き添いに出す。検査が終わったら庁舎へ来るんだ。」
病院へ向かう途中アリスはジャックとの戦闘を振り返りポツリと呟く。
「人斬りじゃなく冒険者になっていれば良いライバルになったんだろうな・・・」
その言葉を聞いたスミレとエミリアも彼の実力から何処か寂しそうな顔をするのだが、そんな空気を換えようとスミレは先程の義肢の件を持ち出す。
「で、どうだった?アリス」
「どうもこうもねぇよ。出力がマックスのままで禄に動けなかったぞ。」
「成程ね。って事は出力をコントロールする仕組みを入れれば使えそうね・・・。テストとしては合格!」
命がけのテストであった事に怒りを覚えるアリスだが、この義肢と魔導石が無ければ全滅していたかもしれないと言うのもあり怒りをぶつける先が無く頭を抱える。その際、自分の髪が血まみれである事を思い出し何かに気づく。
「せっかく昨日風呂に入ったのに!」
「入れる時は毎日入るの!!」
スミレとエミリアのダブルツッコミが辺りに響いた。




