45.密偵 -Spy-
家に戻った三人は道中の間にシールウッドから聞いた話をライラックに伝え、ピースメイカーの三人に伝えるように頼み、ジャックはサルビアが使っていた部屋に入っていた。
シールウッドの話によるとサルビアとやり取りしていた手紙がある。ライラックにも確認して、そういった物はこの部屋にある可能性が高いと聞いた。
サルビアの部屋は綺麗に整頓されており、調べるのに時間はかからないと判断し、ジャックはすぐに作業に入った。
ライラックの親とは思えないほどの几帳面さがこの部屋から伝わるが、前に入ったシオンの部屋が整っていたことを思い出し、シオンはサルビアに似ているのかもしれないとふと思った。
目に入る場所から確認していくがあるのはいままでの狩りのレポートから魔物の生態をまとめた資料などがしっかりと仕分けされて並べられていた。
そしてすぐに目に見える場所の確認が終わり、机や棚の確認もするがシールウッドとのやり取りをした手紙は見つからなかった。
シールウッドの口ぶりとサルビアの部屋の几帳面さから存在しない物ではないとは思うが、簡単に見つかる場所に置いていないとすると隠すほどの情報が記載されていると考えていい。
「さて、どうしたものか」
ジャックが行き詰まったところにシオンがサルビアの部屋に入ってくる。
「探し物は見つかった?」
「いや、サルビアが大切なものをしまうとしたら、どこかわかるか?」
「確か、手紙だったよね?」
ジャックが頷くとシオンは少し考えた後、本棚に近づく。
そこはすでにジャックも調べており、本棚の裏に隠していないか、一度すべての本を出して確認していた。
するとシオンは手に取った本を開き、ぺらぺらとページをめくり始めた。
「もしかして、これかな」
そう言ってシオンが本に挟まれていた紙を取り出す。ジャックは手紙と聞いたため、本の中身までは見ていなかった。そのため気付くことができなかった。
ジャックがそれを受け取り、確認すると名前までは書いてないが、最後に「SW」と記述があり、恐らくシールウッドのものだと予想できた。
それ以上にジャックを驚かせたのは手紙の内容であり、クロウの内情と状況までこと細かく記載されていた。シールウッドはライラックからもどういう人物か、そしてクロウに関わっていることまでは聞いていたが、その手紙の内容から予想できる答えは一つだった。
「シールウッドはクロウ側の情報を集めるために関わっていたのか。シオン、他にも手紙はあるか?」
シオンは再び本棚から本を広げ確認する。ジャックも同じ本棚から何冊か取り出し、その中身を確認する。
棚の中のすべての本を確認し終えたときには、束ができるほどの手紙が出てきていた。
その量からジャックが中身を見たのは最初の数通だけ、残りは見ることを辞め、色あせていない新しそうな手紙だけ分けていた。
「ずっとやり取りしていたみたいだな。だがよく本の間に挟んであるってことがわかったな」
「前にお父さんが本に何か挟んでるとこを見たことがあって、それで私も……あっ、何でもない」
途中まで何かを言いかけたシオンは慌てて顔を赤らめて言葉を止める。その様子からすぐにジャックは察することができたが深追いをする気はなく何も言わずにスルーする。
「何枚か読んでみたが、シールウッドとサルビアがずっとやり取りしていたことを考えると裏切りの線はないって考えていいのか」
サルビアが狩人の中ではやけに情報通だとは思っていたがこういった形で情報網を長い時間をかけて形成していたのかと改めてその人脈に驚かされる。
「私、その人とちゃんと会ってみたいな。昔の……お父さんの話とか聞いてみたい」
シオンが少しだけ悲しげな表情を見せ、目に涙が溜まる。彼女にとってはまだ父親の死の重みは消えていないが、その言葉からはそれを乗り越えようと前を向いているようにも感じた。
「そうだな……全部片付いたら、シールウッドに昔話でも聞きに行こう」
それを見たジャックは不器用ながら励ましの言葉を贈る。いつもは人を励ましたりしないジャックの声は少し上ずっていた。
それを誤魔化すようにわざとらしくジャックは選別した手紙を手に取る。
「っんん、俺はこの手紙をいくつか読むから、ラックたちにそのことを伝えておいてくれ」
「うん、わかった」
「……手伝ってくれてありがとな」
シオンが部屋から出ようとしたとき、ジャックは感謝の言葉を述べる。
それを聞いたシオンは目を見開き、嬉しそうに体を震わせた。なぜならジャックが感謝の言葉を伝えられたのはほとんどない。それだけ貴重で珍しいことだった。
そんなジャックに少しだけ戸惑いがあるが、どこか一線を引いていたジャックが近づいた気がして嬉しさがシオンの顔ににじみ出ていた。
「また手伝うことがあったら言ってね!」
そう言ってシオンは照れ顔を隠すかのように早足でその場を去った。
ジャックも慣れないことをしすぎて恥ずかしいのか、紛らわすように髪をいじり新しそうな手紙の内容を読み始めた。
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リビングではライラックとエトワールたちが情報をまとめこれからどうするか話し合っていた。
ジャックの元から戻ってきたシオンは手紙が見つかったことを伝えると邪魔をしないように自分の部屋に戻ろうとする。そこにロザリアがエトワールたちの話を聞いていて飽きたのか、そもそも理解できていないのか許可をもらってシオンに付いて行った。
シオンの部屋は物がほとんどなく、一つだけ置いてある棚には何年も前からつけている日々の日記が置いてあるだけの簡素な部屋だった。
ベッドの上に座る二人だが、シオンは嬉しそうに枕を抱きしめる。
「何かあったの?」
「些細なことなんだけど、なんだかジャックとの距離が近くなった気がして……」
嬉しそうに語るシオンに対して、ロザリアは眉を顰め不安な表情を見せる。
「リアちゃん、どうしたの?」
「私……ジャックに嫌われてるのかな」
ロザリアはシオンに伝えるかどうか悩んだが、自分の表情を鏡のように受け取ってしまうシオンを見て自然と口から零れ落ちる。
ロザリアもシオンがジャックに好意を抱いていることには気付いていた。そのことを伝えてしまえば、シオンも自分の事が嫌いになってしまうのかと思い、ずっと言えずにいた言葉だ。
「えっ?どうしてそう思ったの?」
その言葉にシオンは驚くが、決してロザリアを否定せずに心配そうに理由を聞く。
ロザリアはシオンの顔を伺いながら、ゆっくりとその理由を話し始める。
「ジャックは……どこか、私を避けている気がする。いつも、少し距離を取っているみたいだし、名前を一度も呼んでない。それどころか、一度も喋りかけられたこともない。
だから、私の事が嫌いなのかなって」
「それは……」
ロザリアの話からシオンは逆にジャックはロザリアを意識しているのではないかと思ってしまった。ロザリアの容姿はどこからどう見ても美少女であり、シオンの真っ黒な髪とは正反対の真っ白でその容姿と合わさって神秘的にすら見える。そしてどこか幼げで儚げな姿はシオンですら魅了されてしまうほどだ。
そして、ジャックの性格上、何の理由もなく人を嫌うことはないし、嫌ったとしても仕事上は対等に接しようとする人間だ。会ったばかりのロザリアが嫌われる理由も見当たらない。そして今までのロザリアとジャックの様子を思い出すと確かに関わらないように動いているように思えた。
そこから導き出される結論はジャックは明らかにロザリアを意識しているということだった。
その事実がシオンを動揺させるが、ロザリアは本気で嫌われていると考えているようにも見える。本気で悩んでいる友人に対してシオンは誠実でいたかった。
「大丈夫だよ。ジャックはリアちゃんのこと嫌いじゃないよ。
きっとリアちゃんが美人すぎて恥ずかしいだけだよ」
「そっか、シオンが言うならそうなんだね」
シオンの励ましの言葉にロザリアは安心したのか、シオンに向け満面の笑みを見せる。
まるで太陽のような笑顔を見せられ、シオンもその美少女に見とれてしまうが、その気持ちはどこか複雑だった。




