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Ender Magia Chronicle  作者: 真夜
第一章 報復人 -BIRTH AVENGER-

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43.告白 -Wish-

 目の前には服のいたるところが破れ、はだけた女性が子供を優しく抱きしめている。

 女性の胸にはナイフが貫通しており、その刃先が覗いている。そして血が子供に降り注ぐ。

 女性はその悲劇的状況にもかかわらず、子供に向け、聖母のような優しい笑みを浮かべている。その顔はまるで痛みを感じていないようにも見えた。


 救おうとしなければ、隠れ続けていれば女性は死ななかったかもしれない。ほかに誰かが助けてくれたかもしれない。

 救えると自惚れた。助けないといけないと使命感にかられた。しかし、それは子供を絶望へ叩きつける選択でしかなかった。


 徐々に冷たくなっていく女性の体温を直に感じ、子供にとって認めたくない現実を突き付けてくる。声を出そうとしても、喉が震えるだけで音にならない。

 それでも女性は子供を抱きしめる力を弱めない。力強く、守るように子供を包み込む。

 隠れていた時にはずっと涙が出たのに、今はもう流れない。声一つ出ない。音すらどこかに置いてきたように、子供の顔からは生気が消え、周囲の音が遠ざかり、何も聞こえなくなる。そして貰った白いマフラーは女性の血で赤く染まっていく。

 静寂の中、女性が小さく、しかし子供にはしっかりと聞こえる声で呟く。


「あなたを愛している。……ロゼ……」


=================================


 大粒の汗を流しながら、飛び上がるように、ジャックは船の中にあるソファーの上で目を覚ました。そして首につけている短い赤いマフラーを強く握りしめる。そこにはあの時の温もりが残っている気がした。

 朝の日差しが顔を照らすが、とても清々しい朝とは言えない最悪の目覚めだった。

 結局、シールウッドが船を去ったあと、ライラックと喧嘩別れになったこともあり、家に戻ろうとはしなかった。

 それにシールウッドの言葉が引っ掛かり、一人で考える時間も欲しかったがそのままいつの間にか眠りについていた。

 そして、ジョーカーの死が引き金になったのか、子供の頃にずっと見ていた夢を久しぶりに見た。それはジャックにとって思い出したくもない消えない記憶、そして、自分の狩人になろうとした理由だった。


 ジョーカーに弟子入りしたときはずっと母親の敵を討つことしか考えていなかった。

 母を殺したのはクロウの人間だが死なせてしまった自分の行動が原因だった。


 彼らはジャックの存在に最初は気付いていなかった。それは母がジャックの事をすぐに隠したからだ。

 襲撃犯はすぐに母を連れ去ろうとはしなかった。部屋を物色し、金目の物を漁り、母を辱め、弄んだ。

 そんな姿を隠れて見ていたジャックは助けなければいけないと、がむしゃらに行動を起こした。

 襲撃犯が床に捨てたナイフを拾い、それを突き立てた。

 だが、七歳の子供の力では大人一人すら殺せなかった。

 逆上した襲撃犯はジャックを殺そうとした。彼らにとってジャックよりも母親のほうが価値は高かった。

 そこで母が庇わなければ、自分が助けようとしなければ誰一人その場で死ぬものはいなかった。

 ジャックがもしあの場で踏みとどまっていれば母が死ぬことはなかったのだ。自分に力がなかったからこそ母の死の原因を作ったのだ。


 だから、狩人になろうと、ジョーカーの弟子になった。復讐できる力がなかったから、弱い自分が許せなかったから。

 だが、ライラックとシオンの出会いが、その復讐心を忘れさせるほど、悪夢を見なくなるほど大切になっていた。

 それがはっきりと分かったとき、ようやく自分がどうしたいのかようやく理解した瞬間、頬を一筋の涙が伝った。


「なんだ……思ったより単純じゃないか」


 そこに大きな音で船室の扉が開かれ、そこにはライラックとシオンが立っていた。


「ジャック!」


 その声に、ジャックは一瞬だけ言葉を失った。

 シオンが名前を呼ぶと同時にジャックに駆け寄り、ライラックも心配な顔をして、シオンに続いてジャックに言う。


「朝になっても戻ってこなかったから心配した」

「ごめん」

「ジャック?何かあったの?」


 いつものジャックと違和感を覚えたシオンがジャックの顔を確認する。

 相変わらずの無表情に見えるがいつもより雰囲気が柔らかい気がした。


「まあな、それよりラック」


 ジャックはゆっくりとソファーから立ち上がり、ライラックに向き合う。

 ライラックは真正面に向き合ったジャックを見て、昨日のことを思い出したのか少しだけバツの悪そうな顔をする。


「昨日は無責任に酷いことを言った、ごめん」

「それは違う。俺がずっと自分の本音を無視して、理屈や合理的なんて建前をつけて遠回しに喋っていたのが悪いんだ。

 だからこそ、二人に今聞いて欲しい」

「……ジャック」

「俺はラック、シオンに生きていて欲しい。ずっと俺と一緒に。

 だから、この街の何もかも全部捨てて、魔王なんかも忘れて、逃げて、ただ生きていてほしい。

 俺の願いは――それだけだ」


 今までなら躊躇するような言葉も、ジャックの口からは自然と零れ出た。それはきっと自分がずっと伝えたかった言葉だったからだ。

 ジャックの言葉にライラックは時が止まったように表情が固まる。

 シオンは顔を赤くしながら目に涙をためていた。

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