39. 作戦-Maneuvers-
逃げ切ることに成功した三人は、途中で目を覚ましたロザリアとともに避難先に指定した、ライラックの家にたどり着いた。
先に着いていたエトワールとライラックから、シオンの怪我は酷くはないが、気絶したままであり、応急処置をして、自室へ寝かせていた。
そこに服が切れ、そこに血痕の染みを作った状態で戻ってきたジャックに、ライラックは酷く青ざめた様子を見せた。
だが、逃げている途中でアステルが止血をし、そこまで深い傷でもなく痛みはまだ少しだけあるが、後遺症はなかった。
そして、ロザリアを奪還中に出会った男とその戦闘の詳細を、ステラとアステルがお互いに不足箇所を補うように説明する。
説明が終わるとエトワールは今までの疲労を吐き出すように大きなため息を吐く。
「そう、状況から判断して、おそらくクロウが私たちの良くない噂を流して、狩人達を駆り立てているってことね」
「アゾべが元々ジョーカーたちにも不満を持っていた感じだった。だから、今回の件に便乗したのもあるだろう」
ライラックの補足にジャックも頷き、そんな状況に周りの表情は暗くなる。
「それより、これからどうするのよ。もう街を表立って動くことは出来ないわよ。
それにリアに関しては、狙われているからなおさらよ」
ステラはその言葉とともに隣の扉を見る。その部屋には気を失ったままシオンに罪悪感から付きっ切りになったロザリアがいる。
「俺とジャックも難しいだろうな。アゾべが街の狩人をまとめている限り、話を聞いてもらえるか怪しい」
「……そうとも限らない」
全員の視線がジャックに集まる。ジャックは刀を持つ男に殺された狩人達の事を思い出しながら伝える。
「アゾべとチームを組んでいる、慕っている奴は無理だと思うが、それ以外は偽の情報を与えられて、組んでる可能性がある。
現にあいつを攫った狩人も魔物の討伐隊が全滅したと言われていたからだ。ラックが生きていることを知ってあいつらは考え直しかけてたしな」
狩人の全体を見れば、ジョーカーとサルビアのほうがアゾべより慕われている。その柱が居なくなったことで不安を覚えた狩人達がアゾべに付いたと考えられる。
ライラックが生きていることを知り、全滅の情報の信憑性が失われればこちらの話を聞いてくれる狩人はいる可能性があった。
「といってもその狩人を街を探すのは難しいんじゃないですか?」
アステルの質問は的を射ており、狩人を見分ける必要があるし、刀の男のようなクロウからの監視もありえる。
だが、ジャックはその監視を掻い潜れる人物に心当たりがあった。
「シールウッドを頼ろう」
「そういえば、彼はギルドに向かう途中で別行動をしたのよね」
「ああ、彼はギルドまでは一緒に来ていない、そして、街にもあまり帰っていないことから知っている人間も少ないし、討伐隊にいたことを知る人は少ないはずだ。
一番、俺たちの中で融通が利く」
「確かにな、ウッディなら上手くやれそうだ」
ライラックもジャックの提案に賛成し、周りも同じように頷く。だが、エトワールだけは少し怪訝な顔をする。
「でも、彼に味方になれそうな人を探してもらうとして、私たちはどうする?ずっとこの家に居ればここが狙われる。
それに彼が裏切る可能性は?」
その言葉にライラックはシールウッドがクロウと関係があるという噂を思い出す。
「それは俺が今から会いに行って確認する。もともと約束はしていたしな。
もし、こっちの敵なら間違いなく狙い時だし、罠を張ってくると思う」
「それなら、全員で向かうべきじゃない。罠の可能性があるなら人数が多い方がいいでしょ?」
ステラの言葉にアステルも頷くが、ジャックは冷静に言葉を返す。
「もし、敵なら人数は相手のほうが多い可能性が高い。
それに、満身創痍のエトワールやラック、それに魔法が使えないお前が行っても足手まといだろ。
アステルにはここの守りも任せたいしな」
「だが、ジャック。怪我はお前もしてるだろ」
「傷は深くない。それにどうせ船には向かわなきゃいけないしな」
ジャックは自身のホルスターの方へ視線を向ける。そこには先ほどの戦いで傷つけられた銃が入っている。
ライラックは苦悶の表情を見せ、エトワールも不安な表情を浮かべるが渋々ジャックが船に向かうことを了承した。
「すぐ向かうのか?」
ジャックは首を横に振り、エトワールの方を向く。
「いや、シールウッドがいない今、エトワールに説明をしてもらう。あの魔獣――魔王について。
少しでも今は情報が欲しい。それで見えてくるものがあるかもしれない」
「そういえば話をすると言ったのに、いろいろありすぎて忘れてたね。
まあ、今ならリアもいないからちょうどいいかな。彼女にとってはいい話でもないしね」
エトワールはロザリアがいる部屋に一瞬だけ視線を向けると、ゆっくりと謎に包まれた魔王の話を始めた。




