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Ender Magia Chronicle  作者: 真夜
第一章 報復人 -BIRTH AVENGER-

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38.死合 -Duel-

 男のほとんど閉じている瞳から見える眼光が放つ殺気は、幾人もの賞金首を相手にしてきたジャックの背筋を初めて震わせた。賞金首は逃げている人間ばかりで、こちらが狩る側だった。しかしその殺気は、男が狩人であり、こちらが獲物と錯覚させた。

 だが、縮こまっていては相手の思うつぼであり、ジャックはそれを表に出さないように男と向き合う。

 広い街でもないので、実力者の顔は大体覚えているジャックだが、その男に見覚えはなかった。


「あんた、この街の人間じゃないだろ。あいつらに何か吹き込んだようだが、誰についてる?」


 男はゆっくりと肩を落とし、リラックスするように足幅を広げる。しかし、あえて隙を見せているようにも見えた。


「ただの流れ人。今は路銀を稼ぐために雇われの身ではあるがな」

「雇われたのは、クロウって組織か?」

「そこまで語る必要はなし、おぬし達には悪いが手早く済ませてもらう」


 男は腰をかがめるとジャックが見たことのない剣の柄に手を添えながら、ジャックに向かって一直線に向かってくる。

 見たことのない構えのまま突っ込んでくる男にジャックは銃を抜き、最大限の警戒態勢を取る。

 しかし、男は何の予兆もなく、速度を緩めずに急な角度で方向転換する。そして、ジャックの少し左後ろにいたアステルの方向へ踏み込む。


「……えっ?」


 急な狙いの変更にアステルは思考が追いつかずに、動きが硬直する。

 アステルが何もわからずに、立ち尽くすところに男の居合が放たれる。

 次の瞬間、アステルが感じたのは胸への強い痛みだった。

 アステルがその痛みで目が覚めたように自身の体を確認するが、どこも切られておらず、尻もちをついていた。


「ほう、わしの斬撃を初見で見切るか、よほどいい目をしておるな」


 アステルが斬られる寸前にジャックが何とか追いつき、アステルを後ろに突き飛ばすと同時にその攻撃を銃身で弾いていた。

 アステルが感じた痛みはジャックが無我夢中で突き飛ばした時の痛みだったことを理解する。

 ジャックはすぐに男から距離を取り、アステルに大声で叱りつける。


「ぼーっとするな、あいつらと同じになりたいのか!」


 アステルは先ほど首を落とされた狩人達の事を思い出し、すぐに立ち上がり、氷の剣を作る。


「ふむ、先に精霊契約者を倒そうと思ったが、まずは少年。貴様を倒さねばならぬようだな」

「そりゃ光栄だな、できればその武器についても聞きたいところだがな。攻撃が早すぎて、こちとらほぼ山勘なんだよ」


 ジャックは攻撃を受けた側の銃をちらりと見る。普段は剣を受けても小さな傷しかついたことがなかったが、その銃身には大きな切れ込みを入れていた。


「確かにこちらでわしと同じ武器を持っているものは見かけないな」

「あれは刀だよ。マギカラランでよく使われる武器、私たちの剣術とは全く違う形態から気を付けて」


 ステラはジャックたちに合流すると同時に男の武器について説明する。


「マギカラランってあんたたちの本拠地のアトラシントより向こう側の島じゃなかったか?

 なんで、そんな奴がいるんだよ」

「わからないけど、実力は相当なものね。どうするの?」

「しばらくは俺に攻撃が向くだろ。だからその間にだ」


 ステラとアステルはジャックの言葉とハンドサインに気付く。


「わかったわ、死ぬんじゃないわよ」

「ジャックさん、できる限り援護します」


 その言葉にジャックが男には聞こえない声でアステルに作戦を伝える。

 男は再び刀を鞘に納め、ゆったりと構えを取る。


「相談は終わったか?」

「待っててくれて、どうも」

「では行こうか」


 再び、男が構えを取ったまま、走り出す。ステラとアステルはジャックから離れ左右に広がる。

 ジャックは傷がついていないほうの銃で男に向け、三発の銃弾を発砲する。相手がどれほど早い攻撃をしようが、近距離武器なのは変わりない。ならば戦い方は相手を近づけない遠距離戦に持ちこもうと考えた。

 相手はかなりの手練れであるため、銃弾をかわすことは出来るだろうと予想する。だが、躱すにはその勢いを殺さなければいけない。そうすれば攻撃速度も落ち、カウンターが狙えるかもしれない。

 しかし、男は勢いを殺さず、銃弾がはっきり見えているのか上体をずらし二発をかわし、残り一発を刀で切り、軌道をずらした。


「……なっ!」

「驚いている暇があるのか?」


 全く衰えることなく、そのままの勢いでジャックに迫る男の刃が振り抜かれる。

 しかし、銃弾を弾くために刀身が外に出ていたため、ジャックはギリギリのところでその刀をかわす。


Ice Pillar(アイスピラー)!」


 すかさず、アステルが魔法で地面から先端がとがった氷柱を出現させるが、男は余裕を持ってそれをよける。

 動かずに待ち構えることが危険だと判断したジャックは、すぐにその場から走り出す。

 そして、銃に弾丸を込めると再び、男に向けて発砲する。本当なら二丁の銃で時間差なく、連射をしたいところだが、最初の攻撃でできた銃の傷が酷く、恐らく暴発する可能性があり、使うことは出来なかった。


「次は鬼ごっこか」


 男はジャックを追いかけずに、その場にとどまり、まるで瞑想に入ったかのように動きがなかった。


「アステル!」

「はい、Ice(アイス) Pillars(ピラーズ)!」


 ジャックの掛け声とともに再び複数の氷の柱が男を囲むように現れる。その氷の柱の間隔は狭く、抜け出す隙間は与えていなかった。

 しかし、男の斬撃が魔物でも傷をつけることしかできない魔法で作った氷をいとも簡単に切り崩す。その断面は一切の傷もなく鏡のように輝いていた。

 ジャックは氷の柱が破られるのがわかっていたのか男の背後を取り、ダガーを構えていた。

 しかし、男はジャックがどの方向からくるのかわかっていたのか、お互い向き合った状態になっていた。


「目隠しからの二段構えの攻撃、いい判断だ。……だが殺気を隠せていない」


 男の音すら聞こえない斬撃が空を切る。

 ダガーの刃は根元から消え、ジャックの足元には血が零れ落ちていた。


「ジャックさん!」

「……っ大丈夫だ、軽い切り傷だ」

「ふむ、切られる寸前にわずかに体をそらしたか」


 ジャックの服には縦に切られた跡があり、血が滲んでいるが、出血はそこまでひどくはなかった。本来ならダガーで受け止めるつもりだったが、まるで受け止めた手ごたえもなく切られるのは予想ができなかった。


 見たことのない刀という武器にジャックは完全に翻弄されていた。問題なのはその切れ味であり、こちらの武器で受ければ、すぐに使い物にならなくなる。

 回避しようにも、あの速度の斬撃をずっと躱し続けるのは不可能に近かった。

 ジャックは使い物にならなくなったダガーを捨て、再び、傷が残った銃を握る。


 その傷を見て、ふと動じて銃がダガーと同じように二つにならなかったことに気付く。

 ジャックは今までの男の行動を振り返る。ダガーや氷柱をいともたやすく斬ったため、最初はあの武器の切れ味が異常なのだと考えたが、彼は攻撃前に必ず、刀を鞘に納め、あの構えを取る。

 あの構え自体、どのような攻撃をしてくるかを隠している目的があるのだろうが、それ以外に何かがあると考えた。


「さすがにここまでわしの太刀筋を見切られるとは、少々自信をなくすな」


 のんきに語る男に対して、ジャックは傷の痛みすら忘れているのか、微動だにしない。

 相手の攻撃の秘密を見極めるため、呼吸を整え、瞬きもせずにじっと男を見つめるジャックに、男も再び刀を鞘に納め構えを取る。

 アステルもその場の空気に飲まれつつも、男から目は離さなかった。


「ジャック、リアは確保したわよ」


 静寂が世界を支配しかけたが、それを崩したのはステラの声だった。

 ステラの背には血で汚れ、恐怖により気を失ってしまったロザリアがいた。

 ステラはジャックが見せたハンドサインの通り、彼が囮になっている中でロザリアの救出に動いていた。アステルもそれを知っており、そのため氷柱を作り、男の視界を遮っていた。


「む、興じすぎたか」

「アステル!」


 瞬時にジャックはその場から大きく離れ、アステルに呼びかける。


Eruption(エラプション) Burst(バースト)!」


 男の真上に強大な魔法陣が現れると、男もすぐさまその場から離れる。

 魔法陣からは巨大な火の球が現れ、大爆発を起こす。

 周りにあった氷柱はその大爆発により、一瞬にして水蒸気となり辺りを埋め尽くす。


「逃げるぞ!」


 ジャックがステラとアステルと合流するや否やすぐに道案内をするように先頭を走る。

 水蒸気が煙幕の代わりとなり、周りの様子が全く分からなくなっていたが、街の裏道をよく知るジャックにとっては目隠しされていても迷わず進み、二人も必死にその後に続いた。

 逃げるときのジャックの表情はどこか悔しさを残していた。

 三人が去り、しばらくたち水蒸気が晴れると男は無傷のまま、その場にいた。


「ふむ、逃げたか。まあ、よい死合ができただけよしとするか。成長が楽しみだな」


 男はどこか嬉しそうにそう呟くとゆっくりとその場を立ち去った。


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