第81話 夏だ! 家族と海水浴!
東條家の別荘に遊びに行った後。
父が「たまには海水浴にでもいくか」と逗子に宿を取り、今年は珍しく家族みんなで連れ立って海水浴に行くこととなった。
……おそらく父は、妹たちの水着姿を見たかったんだろう。
あ、いや。変態とかそういうことじゃなく。
どうやら最近、子供たちの可愛さに目覚めてしまったらしい父は、趣味でアマチュアカメラに手を出し。ことあるごとに俺や白百合や菊華の写真を撮りたがるようになった。
海水浴に来ても、財力に物を言わせて買ったカメラで早速ぱしゃぱしゃと妹たちを激写していた。
……まあ水着といっても、膝まである、いわゆる縞馬と言われる海水着なので、色気もへったくれもないんだけどね。
それでも、『それさえ可愛く見せてしまううちの妹たちはただの天使でしかない』というのは、厳然たる事実で。
その点については父も俺も意見が合致するところではあった。
ちなみに、白百合の助けを得て行われた菊華のダイエットについてなのだが、どうやらちゃんと成功したらしく。
水着を着た菊華が「お兄様!? どう? かわいい?」と、褒めて褒めてと言わんばかりに尋ねてきたので「わっ! すごい! かわいすぎて眩しい!」と大袈裟に誉めておいた。
そろそろ、褒める側の「かわいい!」の褒めバリエーションも増やしていかないと「お兄様、いっつも同じ反応……。ほんとに可愛いと思ってる?」が始まるからね。いやほんとに。
そうして手始めに、大袈裟に褒めるバージョンから返してみたところ「お兄様……、もっとまじめに答えてよぉ……」と拗ねた様子を見せながらも、その表情はなんだかまんざらでもなさそうにニヨニヨしていた。
うん。もうそのリアクションが可愛いよ……。
まあ、そんな話はさておいて。
白百合も菊華も海に来るのは初めてだったので、とりあえず心配だしと思ってふたりの近くでしばらく様子を見ていることにした俺だったのだが。
とにかくテンションだけで「わあああああ!」と海に向かって走っていく菊華と、「菊華ちゃん、あぶないですよ!」とがっちり浮き輪を抱えて警戒を怠らないながらも菊華を追う白百合。
そうして、勢いよく走っていった菊華は、結局なんだか不安になって白百合のところにとてとてと戻っていくのだ。
結果、最終的にお姉様の近くが一番安全だと悟った菊華は、白百合の後ろにぺったりとひっついて歩き、白百合が浮かべた浮き輪にふたりでしがみつきながらぱちゃぱちゃとバタ足して遊んでいた。
あれ……?
なんだろ……。
尊いな…………。
眩しすぎて目を開けていられなかったのはきっと、太陽の光が強かったからだと思う……。
うん……。
そんなこんなで幸せをひとり噛み締めていたら、「お兄様もこっちー!」と菊華からお呼びがかかったので。
やれやれと思いながらも妹たちの元に馳せ参じ、せがまれるままに浮き輪を引っ張ってやりながら、しばらく一緒に遊んだのだった。
「お兄様、あれなあに?」
ひとしきり遊んだ後、休憩のために日陰に移動する途中で菊華にそう尋ねられる。
「ああ、かき氷屋さんだね」
「かきごおり?」
「氷を削って、甘いシロップをかけて食べるものだよ。ふたりとも食べたこと……、ないか」
そういえば、かき氷もこれまで食べる機会がなかったな。
……よし。
こういうのも思い出のひとつだし、ふたりが食べたいっていうなら買ってみるか。
そう思って「食べてみたい?」と聞いたら、ふたりとも頭を縦に振ったので、ひとり一個ずつ買って食べることにした。
「せっかくだから、溶ける前にこのまま店先のベンチに座って食べよう」と言って、3人並んでベンチに腰掛けながら食べていたのだが、ふと見ると隣で白百合と菊華が眉間に皺を寄せて頭を抑えていたので。
「ゆっくり食べないと頭がキーンとするよ」と笑ってふたりの肩にタオルをかけてやった。
父の提案で来ることになった海水浴だったが、結果的に全員にとっていい思い出ができた旅行になったし、連れてきてもらえてよかったな。
こうやって父親との距離が近づいているように思えることも、喜ばしいことの一つなんだろうなあ、と思いながら。
帰りの列車に向かう道すがら、前を歩く父に歩み寄って「父様、今日は本当にありがとうございました。白百合も菊華も本当に楽しそうでしたし、僕も楽しかったです」と改めてお礼を言った。
「……ふん。皆が楽しかったのならばそれでよい」
と、返ってきたのは、そんなツンデレみたいな反応だったけれども。
……お父様。耳が赤いように見えるのは日焼けのせいですかね?
そうしてその後は、例年通りいつもの避暑地に行き、のんびり本を読んだり、自転車にのってサイクリングしたり、真面目に勉強したりとそれはそれで有意義に過ごした。
合間に父が現像した写真を見せられたりしながら「すごいですね父様、こんなに可愛く撮れるのはやっぱり愛情が深いからなんですかね」と、父親孝行することも忘れない、ちゃっかりものの俺なのだった。




