第73話 それで、なんなんだ【でえと】とは
とりあえず、「あの、本当にここで話し込んでいると目立つから……」と俺が口を挟み、結局3人で先日宮姫と行った喫茶店に移動することにした。
「……蒼梧、用事とかあったんじゃないの?」
「別に今日じゃなきゃいけない用じゃないからいい」
そう言いながら、俺を中心に右にむっすりとした蒼梧、左にうっすら笑う宮姫といった形で、3人で並んで移動する。
「おい、それでなんなんだ【でえと】って」
「あー、それは……」
「あら。デートの意味もご存じありませんの? デートとは、男女がふたりで日程を決めて会うことですのよ」
「それくらいは知ってる!」
「あの……、僕を挟んでいがみあわないでもらえますかね……?」
せっかく目立たない場所に移動しようとしているのに、意味が無くなるんですけど……。
君たちが騒ぐと、人目をひくし目立つんだよ……!
頭を抱えたくなるのを我慢しながら喫茶店に辿り着き、個室が空いていたのを幸いに案内してもらう。
宮姫の御付きの女中は外に控えてもらい3人になると、ようやく人心地ついた気持ちになった。
「で、なんなんだ【でえと】って」
席について落ち着いた瞬間、蒼梧が再び先ほどと全く同じ問いかけをしてくる。
知っちゃいたけどしつこいなあこいつは!
「……婚約者候補なんだよ。俺は宮姫の」
そう言って、正直に答えると、今度は蒼梧が苦虫を噛み潰したような変な顔をした。
「……婚約者?」
「そう」
「聞いてないぞ」
「言ってないからね」
蒼梧の追及にさらりと答え、テーブルに置かれたコーヒーを一口啜る。
「……婚約するのか?」
「そりゃあ、いつかはするよ」
俺がなんでもないようにそう答えると、なぜか蒼梧が傷ついたような表情を見せた。
え……、なんで……?
華族に生まれた以上、結婚して子孫を残すのも責務のひとつだ。
将来的に、婚約、結婚という未来は絶対的に訪れるわけで。
相手が宮姫かどうかまではまだ決まったわけではないけれど、それについては割愛した。本人が目の前にいるのだし。
それぐらい蒼梧だってわかっているだろうに、なぜそんな傷ついたような顔をされるのだろうと思いながらふと円卓のもう一方に座る宮姫に目線をやると、なんだかニヨニヨと笑いを堪えているような表情をしていた。
ぱちりと俺と視線が合ったことに気づくと、さっとその口元を扇で隠したが。
あっ、これ……。
絶対、面白がってるなこの人。
そして、どうやら宮姫はことの成り行きを黙って静観することに決めたらしい。
さっきまで散々蒼梧にちょっかいをかけていたのに、ここに来てなぜかニコニコと、俺に「どうぞどうぞ」と言わんばかりに話を進めるよう目線を送ってくるのだ。
「……お前の、家のことは。お前の問題だから俺が口を出す立場じゃないが」
「……うん」
「俺は、お前が……、家や……家族のために。自分を滅しているんじゃないかと思うと。それがどうしようもなく堪らなく……居た堪れない気持ちになるんだ」
「…………」
……なんだ。
蒼梧は蒼梧で、ちゃんと俺のことを慮って、気を揉んでくれているのかと。
思いがけずじんわりと心が温まった瞬間。
「あと……、こんなに早く婚約者ができることで、俺がないがしろにされることも腹立つ」
「うん……、ん?」
せっかく、親友の優しい思いやりに心がほっこりしたところに、急に方向性が違う話が出てきたことで「あれ?」と思う。
「お前がシスコン強めなのもわかってるし、そこは仕方ないと諦めの気持ちもつくが、ここに来てそうでもない女のために3番手に落ちるのは納得がいかない」
「……えっと、なんの話?」
話の矛先が突然見えなくなって蒼梧に問い返すと「お前は……」と突然眼光強くこちらを睨まれ、意を決したように強い勢いで言葉をかけられた。
「一度懐に入れたら、情を抱く。それはそれでいい、悪いことだとは俺も思わない。でも……、結婚とかそういうことは、自分を曲げずにちゃんと好いた相手と一緒になるべきだと言ってるんだ」
宮姫には悪いが、どうしてもこの縁談が俺自身の幸せのためではなく、家のための政治的な縁談に見えたのを黙っていられなかったのだと、蒼梧が言った。




